この記事を読むと分かること
- 公正証書遺言と自筆証書遺言の違いが分かる
- 公正証書遺言の作成費用や必要書類が分かる
- 公正証書遺言を作る際のポイントが分かる
自分の遺産を相続人にどう分配するか? その意思表明をするために残す文書が遺言ですが、遺言内容をもっとも確実に実行できるのは公正証書遺言です。
この記事では公正証書遺言について、自筆証書遺言との違いを比較しながら、作成費用や必要書類など実際に作成するにあたって必要な情報をお伝えします。
とくに公正証書遺言を作成するうえで最大のネックとなる公証人面談について、おそらく日本で初めて、本物の公証人が本物の遺言作成に立ち会って口述確認している動画を掲載しています。
このページの記事と動画を見て、気軽に公正証書遺言を作成しようと感じて頂ければ幸いです。
目次
公正証書遺言とは
日本の法律では、遺言の形式として、自筆証書遺言・公正証書遺言・秘密証書遺言の3つが認められています。
この3つのうち、最も利用件数が多い(全体の8割以上)のが公正証書遺言です。
公正証書遺言とは、ごく簡単にいうと公証人や証人の立ち合いのもと遺言書を作成する方法で、遺言が無効となってしまったり、発見されなかったりするリスクを避けられるという特徴があります。
・公正証書遺言
次に下記の近年の遺言書の作成状況の統計を見ていきましょう。
遺言書の作成状況
このグラフを見る上での注意点がひとつあります。
自筆証書遺言は他人に知られず自分一人でも作ることができますから、自筆証書遺言の正確な作成数を知ることはできないのです。よって、自筆証書遺言は検認数=遺言者が実際にお亡くなりになった後、家庭裁判所に持ち込まれた件数が集計されています。
それを割り引いて見る必要はありますが、数字上は公正証書遺言の作成数は自筆証書遺言の6倍以上あるという結果です。とくに注目すべきは公正証書遺言の作成数で、ここ6年で28%以上増加し毎年の作成件数は10万件を超えています。
相続税の改正により課税対象者が増えたことや、近年の終活・エンディングノートなどの認知が広まったことが背景にあるようです。
自筆証書遺言との違い
まず、遺言書には大きく3つの種類があり、公正証書遺言のほかに自筆証書遺言と秘密証書遺言があります。
自筆証書遺言
自筆証書遺言は、唯一すべて自分一人で、無料で作成できる手軽な方法と言えます。
ただし、遺言書は法律で厳格にその書き方が定められており、少しでもそのルールに則っていないとまったく意味のない無効な書類となってしまいます。そのため、自筆証書遺言を書く際は遺言書や相続の法律に関する正確な知識が必要となります。
基本的なルールとしては全文を自筆で書くこと。日付や相続人、財産などを特定できるようにしっかり記載し、文字の修正や訂正もルールに従って適切に実行することなどが挙げられます。
公正証書遺言
公正証書遺言は、遺言書を自分で書く必要はなく、口述した内容を公証人が文章に書き起こしてくれる。遺言内容が固まったら公証役場に行き、公証人と証人2名の立ち会いのもとで遺言内容を確認し署名押印へと進めます。
手間や料金がかかる分、より確実に遺言内容を相続人に伝えることができる方法で、現在、遺言書の種類の中ではもっとも多く利用されています。
秘密証書遺言
秘密証書遺言は、遺言内容を秘密にしたまま、遺言書の存在のみを公証人に証明してもらうことで、亡くなった後に相続人に発見される確率を高くする方法です。
利用件数はごく少数で、誰にも遺言内容を知られたくないという特殊な場合を除いて、利用されることはあまりありません。
これらすべての種類の遺言書に共通するのは、正しく作成すれば遺言書の法的効力が生じるという点です。
遺言書の効力は、実は遺産の配分を決めることだけではありません。その他に遺言書で指定できる項目を挙げてみましょう。
- 相続財産の処分
相続人以外にもお世話になった人や団体などに遺産を寄付(遺贈)することができます。 - 相続人の排除
被相続人への虐待などによりその相続人に相続させたくない場合、相続人から排除することができます。 - 遺産分割方法の指定・分割の禁止
「不動産を売却して、その売却代金を相続させる」というように遺産の分割方法を指定することができます。逆に、遺産分割することを禁止することもできます。 - 子の認知
婚姻関係にない女性との間にできた子ども(婚外子)を認知し、法定相続人とすることができます。
公正証書遺言は自筆証書遺言と何が違うか?
結局、今自分が必要としている遺言書は、公正証書遺言なのか自筆証書遺言なのか、どちらを書くべきなのかをより分かりやすく見るために、3つの違いに注目してみましょう。
有効性の違い
公正証書遺言と自筆証書遺言の一番の違いは、公正証書遺言のほうがより確実に有効な遺言内容を残すことができるという点です。
これは、公正証書遺言のほうが効力が強いなどと言う話しではなく、「公証人」という法律に熟達している人間が遺言作成するか、それとも法律を詳しく知らない一般人が遺言作成するか、どちらがミスの可能性が高いか? という意味合いです。
つまり、自筆証書遺言でも遺言の形式をしっかり守って書き、適切に開封されれば遺言内容は有効です。しかし、ひとつでもミスがあれば遺言内容が無効になる可能性があり、実際、遺言が見つかった場合でもその内容は無効となることが少なくないのが自筆証書遺言なのです。
ただし、公正証書遺言だから100%有効という訳ではありません。その点については、「公正証書遺言のメリット・デメリット」に記載します。
公正証書遺言と自筆証書遺言の有効性の違い
公正証書遺言 | 自筆証書遺言 |
---|---|
より確実に有効 | 無効の可能性あり |
保管の安全性
公正証書遺言は作成の際に、原本・正本・謄本と同じ内容のものが3種類同時に完成します。
原本は公証役場に長期間、厳重に保管されます。正本・謄本は遺言者や遺言執行者に手渡されますが、万が一こちらを紛失したり他人に改ざんされたとしても、正しい内容の原本が公証役場に残っているため、問題が起こることはありません。
これに対して、自筆証書遺言は原則として遺言者本人が自分で保管することになります。
その内容を快く思わない相続人が中身を見たり、破棄したり、改ざんしようとする可能性がありますので、生きているうちは誰にも見つからない場所で、なおかつ亡くなった後は、相続人に確実に見つかる場所に保管しなくてはなりません。
公正証書遺言と自筆証書遺言の保管方法
公正証書遺言 | 自筆証書遺言 |
---|---|
安全 | 安全な保管が難しい |
なお、この安全な保管が難しいことから2020年7月より「法務局における自筆証書遺言保管制度」がスタートしています。
検認の要否
自筆証書遺言書を発見した際、その遺言書を勝手に開封せずに家庭裁判所に持ち込み、検認という手続きを行わなければなりません。
これは自筆証書遺言の発見者が内容を書き換えたり、故意に破棄することを防ぐために、遺言書のそのときの状態を確認し保存する手続きです。
これに対して、公正証書遺言は公証役場に原本が保管されているため、改ざん紛失のおそれがないので検認を必要としません。
公正証書遺言と自筆証書遺言の検認の要否
公正証書遺言 | 自筆証書遺言 |
---|---|
検認不要 | 検認要 |
なお、2020年7月より始まった「法務局における自筆証書遺言保管制度」を利用すれば、自筆証書遺言であっても検認が不要となります。
公正証書遺言の作成費用
公正証書遺言は、自筆証書遺言の作成と違って、作成に費用がかかります。基本的には、公証人の立会い当日、遺言書が完成した後、その場で現金で支払います。
公証人の手数料がいくらかかるかは、下記の表に示す財産価額によって決まります。
目的の価額 | 手数料 |
---|---|
100万円以下 | 5,000円 |
100万円を超え 200万円以下 |
7,000円 |
200万円を超え 500万円以下 |
11,000円 |
500万円を超え 1,000万円以下 |
17,000円 |
1,000万円を超え 3,000万円以下 |
23,000円 |
3,000万円を超え 5,000万円以下 |
29,000円 |
5,000万円を超え 1億円以下 |
43,000円 |
1億円を超え 3億円以下 |
43,000円に 超過額5,000万円までごとに 13,000円を加算した額 |
3億円を超え 10億円以下 |
95,000円に 超過額5,000万円までごとに 11,000円を加算した額 |
10億円を 超える場合 |
249,000円に 超過額5,000万円までごとに 8,000円を加算した額 |
上記手数料は「遺産を受け取る人1人あたり」にかかる点に注意してください。
つまり、公証人に支払う金額は相続人や遺贈を受ける人の手数料を全員分合算した合計金額ということになります。事例で見てみましょう。
分配される財産金額 | 手数料 |
---|---|
長男に2000万円 |
23,000円 |
次男に1000万円 |
17,000円 |
三男に500万円 |
11,000円 |
合計 | 62,000円 |
なお、次の追加費用がかかる場合があるのでご注意ください。
病床執務加算 | 基本手数料の50% |
---|---|
日当 | 半日10,000円、 1日20,000円 |
交通費 | 実費 |
正本と謄本の 交付手数料 |
1枚につき250円 |
---|
原本の枚数が 4枚を超える場合 |
1枚につき250円 |
---|
このようにケースによって手数料の計算は変わってきますが、「誰に、財産をいくら分配するか」が決まれば、公正証書遺言の作成に必要な費用をおおよそ計算できます。
公正証書遺言の必要書類
公正証書遺言の作成にあたって準備が必要な書類等について説明します。
実は公証人によって要求する書類にすこし差があったりするので、一番良い方法は実際に作成しながらその都度、公証人に必要な書類を確認することです。
必要な書類
- 遺言者の本人確認書類
(印鑑登録証明書または運転免許証、マイナンバーカード) - 戸籍謄本
(相続人との親族関係がわかるもの) - 不動産の証明書類
(登記簿謄本または固定資産評価証明書) - 遺贈を受ける人の確認書類
(住民票) - 証人となる人の確認書類
(氏名・住所・生年月日・職業が分かるメモ及び住民票)
用意しておいたほうがよい書類等
- 遺言者の実印
(印鑑登録証明書で本人確認を行う場合) - 金融資産の証明書類
(残高証明書または通帳)
戸籍謄本や住民票、印鑑証明書、不動産登記簿謄本や固定資産評価証明書など公的機関が発行するものは、発行日から3ヶ月以内のものが必要となりますので、早めに準備しすぎると再発行しなければならないことをご注意ください。
公正証書遺言作成の流れ
公正証書遺言は、公証役場で公証人と一緒に作成手続きを進めていきますが、全体の流れを知っておいたほうがよりスムーズに完成まで進めることができます。
とくに遺産分配に関してどうしたいかという「遺言者の意思」は、公証人が助言することはできても決定することはできません。ご自身の気持ちを整理して考えることも必要となります。
- 主に「誰にいくら渡すか」というおおまかな遺言内容を決めておく
- 証人2名となってもらう人を決めておく(相続人等は不可。有料で用意してもらうことも可能)
- 戸籍謄本等の必要書類を準備する
- 公証人と遺言作成日程を決める
- 公証役場で遺言書の作成を行う(遺言者の自宅や病室などが作成場所となる場合もある)
- 完成した遺言書を受け取り、費用を支払う
以下、それぞれの手続き内容について詳しく見ていきます。
おおまかな遺産分配の内容を決めておく
公正証書遺言は、公証役場で公証人に遺言内容を口述する形で作成します。
当然ながらおおまかな遺言の内容がすでに決まっていないと、作成の手続きを進めることができないので注意しておきましょう。
具体的には、遺産となる財産の一覧を財産目録のような形で準備しておくとともに、事前に法律家や税理士といった人たちと相談の上で「誰にどの財産を相続させるのか」を決めておく必要があります。
遺言書で定める遺産分割の内容は、相続人となる人の間でトラブルを未然に防ぐ意味があるほか、相続税の負担金額などを決定することになりますから注意が必要です。
証人2名になってもらう人を決めておく
公正証書遺言には、証人となってもらう人が2人以上必要です。
証人となるために資格などは必要ありませんが、次のような人は証人となることができません。
- 推定相続人、その直系血族およびその配偶者
- 遺贈を受ける人、その直系血族およびその配偶者
- 未成年者
- 公証人の親族や配偶者、従業員など
とくに注意が必要なのは、財産を与える予定の推定相続人や遺贈を受ける人が証人になれないことです。
この制限があるために信頼できる証人2名を自分で準備できずに、有料で家族以外の証人を依頼するケースはかなり増えています。
ちなみに、弊社の遺言書作成サービスをご利用頂いた場合は、追加料金なしで弊社スタッフを証人とさせて頂けます。
戸籍謄本等の必要書類を準備する
公正証書遺言の作成については、公証人によって要求する書類にすこし差があったりするので、一番良い方法は実際に作成しながらその都度、公証人に必要な書類を確認することです。
公証人が作成を手伝ってくれると言っても、ゼロから全てを代行してくれるわけではありません。家族関係や財産の所在など、家族しか分からないこともたくさんありますので、それを正確に証明し、説明するためにも次の書類をご準備ください。
必要な書類
- 遺言者の本人確認書類
(印鑑登録証明書または運転免許証、マイナンバーカード) - 戸籍謄本
(相続人との親族関係がわかるもの) - 不動産の証明書類
(登記簿謄本または固定資産評価証明書) - 遺贈を受ける人の確認書類
(住民票) - 証人となる人の確認書類
(氏名・住所・生年月日・職業が分かるメモ及び住民票
ご病状などの理由で、役所に足を運ぶことも難しい場合は行政書士が書類収集から代行するサービスもございますので、お困りの方はいつでもお問い合わせください。
公証人と遺言作成日程を決める
ここまでの準備ができたら、公証役場に連絡をして作成の日程を決めます。
遺産相続について相談している弁護士などがいる場合には、日程調整なども代行してもらえるケースが多いでしょう。
なお、公証役場は全国に約300か所ありますが、特に管轄などは決まっていません。
遺言者が公証役場に出向くことが難しい場合には、病院などに公証人に出張してもらうことなども可能ですので、相談するようにしてください。
公証役場で遺言の作成を行う
公証役場にて遺言作成を行う
公証人と事前にアポイントを取った日時・場所で公正証書遺言作成の手続きを行います。
公証役場に訪問するのが基本ですが、ご自宅や病院などで作成するケースもあります。
当日、具体的に何をするのか? がもっとも分かりにくい点だと思いましたので、公証人との立会い現場の一部始終を動画に収めました。本物の公証人の許可を得て、指導に基づいてホームページに掲載しております。
ぜひこの動画と記事を見て頂き、遺言書を作成するきっかけや、親に遺言書を書いてもらうよう勧めるきっかけとなれば幸いです。
公証人とは、全国におよそ300か所ある公証役場という役所で仕事をしている公務員です。
公務員とはいっても国からお給料をもらっているわけではなく、依頼者から事務を請け負うたびに手数料として料金を徴収するかたちで事務運営を行っているという特徴があります。
現在、およそ500名の公証人が活動していますが、公証人の事務を行うためには30年以上の法律事務の経験が要件として求められていますから、そのほとんどは過去に裁判官か検察官を経験された方です。
完成した遺言書を受け取り、費用を支払う
完成した公正証書遺言書を受け取り、費用の支払いを行います。
遺言の原本は公証役場で保管し、正本や謄本は遺言者本人や遺言執行者に交付されるのが一般的です。
公証役場に原本が保管されているため、紛失や改ざんのリスクはありません。
公正証書遺言の検索
公正証書遺言を作成し、公証役場に原本が保管されてからは、仮に遺言書の正本や謄本を紛失してしまっても「検索」をすればすぐ見つけることができます。
1989年以降に作成した遺言書であれば、本人の氏名・生年月日等や作成日、保管場所といったデータベースが遺言検索システム(日本公証人連合会)に登録されています。
生前 | 死後 |
---|---|
本人のみ | 遺言執行者や相続人 などの利害関係者 |
利害関係者が遺言検索システムを利用する際の必要書類
- 死亡した事実を証明する書類
(被相続人の戸籍謄本・死亡診断書等) - 利害関係者であることを証明する書類
相続人であることを証明する場合は戸籍謄本(必要な戸籍謄本の範囲は相続順位によって異なる)を提出します。 - 本人確認書類
(運転免許証など)
申請者が代理人である場合は、利害関係者から代理人への委任状提出が求められます。
注意して頂きたいのは、この遺言検索システムで確認できるのはあくまで遺言書の存否と保管場所だけであって、内容を確認するには保管されている公証役場に出向く必要があるということです。
公正証書遺言のメリット・デメリット
上でも見たように、日本国内で作成されている遺言の8割以上が公正証書遺言です。
このように公正証書遺言が好んで利用される具体的な理由としては、公正証書遺言が持つ次のようなメリットが挙げられるでしょう。
- 遺言が発見されないリスクを避けられる
- 遺言が無効となってしまうことを防げる
- 遺言の偽造を防げる
- 相続発生後、ただちに遺産分割手続きを開始できる
それぞれの内容について、以下で順番に説明します。
遺言が発見されないリスクを避けられる
遺言は、相続が発生した後に相続人に発見してもらえないと、当然ながら遺言の内容を実現することができません。
この点、公正証書遺言や秘密証書遺言では遺言を公証役場という公的機関に保管してもらうことができますから、相続発生後に遺言が発見されないというリスクを避けることが可能です。
一方で、遺言の3つの形式のうち、自筆証書遺言はその名の通り「自分で作成して、自分で保管しておく」方法ですから、相続人によって発見してもらえない可能性があります。
相続発生前に遺言の保管場所を伝えておくのも1つの対策ですが、その場合には偽造や勝手な内容変更が生じてしまう可能性がないとは言えません。
遺言書の保管場所
公正証書遺言 | 自筆証書遺言 |
---|---|
公証役場で保管 | 自分で保管 |
遺言が無効となってしまうことを防げる
日本の法律では、遺言は法律上の書式を満たしていない場合には、内容の一部または全部が無効となってしまう可能性があります。
例えば、自筆証書遺言では遺言者本人が手書きで遺言を作成しなくてはなりませんから、パソコン入力で作成した遺言が見つかったとしても、裁判所の検認手続きによって遺言が無効とされてしまう可能性があります。
また、遺言の内容が極端に社会常識に反するものである場合には、公序良俗に反するとして無効となってしまったケースも過去に例があります。
公正証書遺言の形で遺言を作成する場合には、法律知識を持った公証人が遺言の内容を一通りチェックしてくれますから、こうした理由で遺言が無効となってしまうリスクを避けることが可能です。
遺言の有効性
公正証書遺言 | 自筆証書遺言 |
---|---|
公証人が遺言の内容を一通りチェックする | 検認手続きによって無効となる可能性がある |
遺言の偽造を防げる
上でも見たように、公正証書遺言は遺言作成後に公証役場で正本を保管してもらうことができます(遺言書の手元には謄本が交付されます)
遺言を作成した後に、遺言の内容を偽造されてしまうことがないことも公正証書遺言を選択するメリットといえるでしょう。
遺言の内容
公正証書遺言 | 自筆証書遺言 |
---|---|
偽造されることはない | 偽造される可能性がある |
相続発生後、ただちに遺産分割手続きを開始できる
公正証書遺言では、相続が発生した後(つまり遺言者が亡くなった後)、すぐに遺産分割の手続きを開始することが可能です。
公正証書遺言の形で遺言が作成されていることを相続人に伝えておけば、相続人は公証役場で検索をするだけで遺言書の内容を確認することができます。
公正証書遺言を作成する場合、多くの場合には遺言執行者が指定されていると思いますので、その人が遺言内容実現のための事務(銀行預金の分割や不動産登記の名義変更など)を進めていくことになるでしょう。
一方で、自筆証書遺言の場合には、遺言書が発見された場合には家庭裁判所に対して「遺言書検認の申し立て」の手続きを行わなければなりません。
多くのケースで家庭裁判所による遺言書検認の完了には1週間~2週間程度が必要になります。
遺言書の検認
公正証書遺言 | 自筆証書遺言 |
---|---|
不要 | 必要 |
上では公正証書遺言を利用するメリットについてみましたが、公正証書遺言を利用することには次のようなデメリットもあります。
- 遺言の内容を他人に話す必要がある
- 作成に時間がかかる
- 作成に費用がかかる
こちらも順番に見ていきましょう。
遺言の内容を他人に話す必要がある
遺言の内容には遺言者の具体的な財産の状況や、家庭状況をうかがわせる内容が記載されることになります。
こうした内容について他人である公証人や、証人となってもらう人に具体的に知られてしまうことに抵抗があるという方もいらっしゃるでしょう。
そのような場合には公正証書遺言ではなく、秘密証書遺言の方法を選択することも有効です。
秘密証書遺言では、公正証書遺言と同様に公証役場で遺言の存在を証明してもらうことは同じですが、遺言の具体的な内容については秘密にしておくことができます。
遺言書の内容
公正証書遺言 | 秘密証書遺言 |
---|---|
証人に知られる | 誰にも知られない |
作成に時間がかかる
公正証書遺言は公証役場で公証人と連絡を取り合い、作成手続きを進めていかなければなりません。
多くの場合は作成手続き完了まで1週間程度は必要になると考えておきましょう。
この点、自筆証書遺言であれば作成に慣れている方であれば直ちに作成ができますから、今すぐ遺言書を作成したいというニーズのある方は、自筆証書遺言の形式を選択するのが良いかもしれません。
遺言書の作成時間
公正証書遺言 | 自筆証書遺言 |
---|---|
1週間程度 | 数十分 |
作成に費用がかかる
公正証書遺言を作成するためには、公証人に対して手数料を支払う必要があります(公正証書遺言を作成する際に必要になる手数料の具体的な金額については、後の項目でくわしく説明いたします)
この点、自筆証書遺言であれば作成のための事務用品さえそろえれば無料で作成することができるでしょう。
自筆証書遺言の作成ルールについてのくわしい説明がある遺言書作成キットなども販売されていますから、利用を検討してみると良いですね。
遺言書にかかる費用
公正証書遺言 | 自筆証書遺言 |
---|---|
公証人への手数料が必要 | 安価で作成できる |
このように、公正証書遺言の方式を選択することにはメリットとデメリットがあります。
総合的にまとめると「財産配分に関する意思をできるだけ確実に反映させられる方法だけど、その作成には手間と費用がかかる」のが公正証書遺言の特徴といえるでしょう。
遺産が多額にある場合や、遺産相続についてトラブルになることが予想される場合には、公正証書遺言を選択することを強くお勧めします。
しかし、公正証書遺言を残せば100%確実に有効な遺言内容を残せるわけではありません。
公証人の立会いのもとに作成されますから、書式の面でその効力が否定されることは考えられないのですが、遺言作成時点において遺言者に意思能力が欠如していた場合に、遺言の効力が否定されたケースがあります。
また、相続人の一部から脅迫や詐欺を受けたり、遺言者自身に遺言の重要な部分について重大な錯誤があったりしたような場合には、通常の法律上の意思表示と同様に、遺言内容の無効が問題となるケースがあります。
公序良俗に反するような遺言内容(愛人に全財産を相続させるなど)となっている場合でも、遺言が無効となったケースは過去にあります。
公正証書遺言作成の際に立ち会う公証人は、主に書式面のミスがないかどうかを確認してくれる存在だと思っておくとよいでしょう。
公証人は遺言の内容まではアドバイスしてくれない
注意点として、公証人は公正証書遺言作成の事務手続きについては相談に乗ってくれますが、遺言の内容そのものについては具体的なアドバイスはしてくれないことです。
もちろん、公証人のほとんどが資格を持った弁護士ですので、遺産相続でよくあるトラブル事例や、一般的な法律手続きの流れなどについては説明してくれるでしょう。
しかし、相続税への対策を踏まえた遺産分割の方法や、個別具体的な状況についての遺産相続のアドバイスはしてもらえないのが実際のところです。
遺産分割の方法について具体的なアドバイスを受けたい場合には、別途税理士や弁護士といった専門家に料金を支払って相談をする必要があります。
公正証書遺言は、あくまでも「遺言の具体的な内容についてはおよそ完成している状態」が大前提で、その内容が確実に実現されるようにするためのひとつの手段にすぎないものと理解しておきましょう。
遺言の「内容」についてのアドバイスは専門家に相談を
上でも少し説明しましたが、公正証書遺言を作成する際に公証人に依頼できるのは、書式などの手続き面での代行だけです。
相続に関するごく一般的な内容については質問に答えてもらうことが可能ですが、具体的に「誰にどれだけの財産を残すのがより望ましいか」といった内容については相談することができません。
こうした具体的な内容について相談をしたい場合には、別途税理士や弁護士などの専門家に依頼する必要があります。
遺産相続については、相続税対策を行うかどうかによって税金の負担額が大きく変わることがあるほか、遺産トラブルを避けるために作成した遺言書が、かえって相続人どうしの感情的な対立を引き起こしてしまう事も考えられます。
遺産相続トラブルに適切に備えるためには、できるだけ早いタイミングで各分野の専門家の助言を受けるのが適切といえるでしょう。
まとめ
今回は、遺言を公正証書遺言のかたちで作成するメリットやデメリット、具体的な作成手続きの流れについて説明しました。
日本の法律では、遺言には非常に強い効力が与えられているといえます。
遺言の内容と法律のルールが食い違う場合には、原則として遺言の内容が優先されるためです。
その一方で、遺言は法律で求められる書式を満たしていないと、内容の一部または全部が無効となってしまう危険があるので注意してください。
公正証書遺言は遺言を確実に残したい場合にとても役に立つお薦めの方法です。また、自分ではなく親に遺言作成を勧めたい場合は親にいますぐ公正証書遺言を書いて欲しい方に伝える30の注意点の記事を参考にしてみてください。