遺産相続の手続きでは、一定の期限内に行わないといけないものが多くあります。
この記事では、遺産相続に関連して期限内に行う必要がある手続きについて解説しますので、ぜひ参考にしてみてください。
目次
遺産相続で期限までに行わないと手続きを受け付けてもらえなくなるもの
遺産相続に関連する手続きの中には、期限までに行わないと手続きを受け付けてもらえなくなるものがあるので注意が必要です。
具体的には、次の4つの手続きと期限については、期限内に行わないと、借金を引き継ぐ義務が生じたり、税金の負担が大きくなってしまったり…と、不利益を多大に被る可能性があります。
- 【3か月以内】相続放棄の手続き
- 【4か月以内】所得税の準確定申告
- 【10か月以内】相続税申告の手続き
- 【1年以内】遺留分減殺請求の手続き
以下で順番に説明します。
【3か月以内】相続放棄の手続き
- 期限
- 相続が発生したことを知った時点から3か月以内
相続放棄とは文字通り「自分は相続人に該当しますが、相続にはいっさいかかわりません」という意思表示をすることです。
相続放棄をした人は現金や不動産などのプラスの資産の相続権を失う代わりに、借金などの債務についても相続する義務を免れることができます。
相続放棄の手続きは、自分が関連する相続が発生したことを知った時点から3か月以内に、家庭裁判所への申述という形で行う必要があります。
(遺産に借金があることを知らなかった場合
また、相続が発生したことは知っていたけれど、遺産の中に借金などの債務があることを知らなかったということも考えられます。
このような場合に、遺産に借金があることを知らなかったことについて、正当な理由があると判断された場合には、その知らなかった期間中は相続放棄期限までの起算はスタートしません。
一方で、遺産に借金が含まれていることを知らなかったことについて過失があるという場合(例えば、亡くなった人の債権者から通知が来ていたのに郵便受けを見ていなかったとか、遺産分割協議に理由なく参加しなかったような場合)には、相続放棄の期限までの起算はストップしません。
(相続放棄は撤回できない
このように、相続放棄を行うと借金の支払い義務を免れることができます。
一方で、いったん行った相続放棄の意思表示は、後から撤回することができないので注意が必要です(まだ熟慮期間中であったとしても撤回はできません)
ただし、相続放棄の意思表示といえども通常の法律行為でいう意思表示(売買契約をするときの意思表示など)と同じで、詐欺や強迫によって意思表示をさせられた場合には取消が可能です。
(相続放棄をしなかった場合
相続発生を知った時~3か月間の期間のことを「熟慮期間」と呼びます。
この熟慮期間中に相続放棄を行わなかった場合には、親族の遺産として含まれている借金などの債務の支払い義務を引き継ぐことになってしまいます(単純承認といいます)
(相続放棄期限の延長方法
相続放棄の期限は、上でも説明したように3か月の熟慮期間が終了するまでです。
ただし、この熟慮期間がまだ到来していないタイミングで、家庭裁判所に申し立てをして期限延長を認めてもらえば、熟慮期間をさらに延長してもらうことも可能です。
ただし、熟慮期間の延長を認めてもらえるかどうかは家庭裁判所が決めることですので、ぎりぎりのタイミングにこの延長手続きを行うのは避けなくてはなりません。
【4か月以内】所得税の準確定申告
- 期限
- 相続が発生したことを知った時点から4か月以内
- 提出先
- 管轄の税務署
- 備考
- 時間がかかるため、早めの準備と対応が必要
亡くなった方が個人事業主として確定申告を行う必要がある人であった場合には、相続人が亡くなった人の代わりに、亡くなった年分の確定申告を行う必要があります。
このように、相続人が亡くなった人のために所得税の確定申告を行うことを「準確定申告」と呼びます。
通常の確定申告は2月16日~3月15日の間に行いますが、準確定申告の場合は相続発生から4か月が期限になります。
準確定申告を行った結果として所得税が還付される可能性もありますが、その場合には還付された税金は遺産に含める必要があります。
亡くなった人が次の要件に該当する人であった場合には、準確定申告が必要になります。
準確定申告が必要な方
- 個人事業主として事業所得のある方
- 給与所得者の方で、お給料以外の所得が年間20万円以上ある方
- 給与所得者の方で、年収が2000万円を超えていた方
- 不動産投資などをされていた方
また、個人事業主の方で、年間の売上高が1000万円を超えている場合、消費税の課税事業者となっている可能性が高いです。
消費税の課税事業者となっている方は、消費税の申告も準確定申告と一緒に行いましょう。
【10か月以内】相続税申告の手続き
- 期限
- 死亡日より10か月以内
遺産の額が基礎控除額を超える場合には、相続が発生してから10か月以内に、相続税の申告と納税を行う必要があります。
基礎控除=3,000万円+(法定相続人の数×600万円)
遺産の額が基礎控除以内であれば、相続税がかかりませんし、相続税の申告は必要ありません。
延滞すると、税務署から督促が来たり、利子税、延滞税などが課税されます。
相続税の申告を期限までに行わなかった場合には、本来であれば相続税の計算に当たって適用してもらえる税額軽減措置を適用してもらえなくなります。
相続税の税額軽減措置のうち、代表的なものとしては以下のようなものがあります。
- 相続税の配偶者控除
- 小規模宅地等の特例
これらは相続税の負担額を計算するうえで非常に大きな効果がある軽減措置ですから、遺産が多くある場合には、特例適用のために必ず期限内の申告をしていきましょう。
相続税の申告期限までに遺産分割ができていない場合
相続税の申告期限までに遺産分割協議が完了していないなどの理由で申告ができない場合には、税務署に「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出しておくことでこれらの適用を後から受ける方法があります。
もちろん、申告期限が相続発生から10か月であることは変わりがありませんから、その時点で遺産分割が未了であっても相続税の申告と納税はしておかなくてはなりません。
その上で、上記の3年以内の分割見込み書を提出しておけば、遺産分割が完了した後に改めて「更正の請求」の手続きを行うことになります。
(更正の請求とは、先に納めた税額が本来負担すべき税額よりも多い場合に、納めすぎた分を還付してもらうための手続きです)
相続が発生してから10か月以内に、相続税の申告を行う必要があります。
注意点は、相続税の申告手続きは遺産分割の手続きとは別途、同時進行で進めていく必要があることです。
もし遺産分割が完了していなかったとしても、相続税の申告は申告期限がくるまでに完了しなくてはなりません。
【1年以内】遺留分減殺請求の手続き
- 期限
- 死亡日より1年以内
※相続の開始から10年間が経過した場合、請求できなくなる
亡くなった人の配偶者、子供(孫などの直系卑属を含みます)、父母(祖父母などの直系尊属を含みます)は、「最低限これだけの遺産は分けてほしい」と請求することができます。兄弟姉妹には遺留分が認められていないことに注意してください。
このような遺族の権利のことを「遺留分」と呼び、遺留分を実際に請求するための手続きを「遺留分減殺請求」と呼びます。
配偶者や子供が遺留分請求者に含まれる場合には、遺産全体の2分の1が遺留分となります。
一方で、父母のみが遺留分請求者となる場合には、遺産全体の3分の1が遺留分となります。
遺留分というルールが設けられているのは、亡くなった人が遺言によって遺産分割の方法を定めることができるからです。
遺言が配偶者や子供・父母が最低限受け取ることのできる遺産を渡さないという内容になっている場合、遺留分減殺請求によって遺留分を実現する必要があります。
遺留分減殺請求の期限についての2つのルール
遺留分減殺請求の期限については、次のように2つのルールがあります。
- ①相続があったことを知ってから1年間
- ②相続が発生してから10年間
実際には近しい親族が亡くなった時にはすぐに相続の発生を知ることになりますから、①のルールにより1年以内の手続きが必要と考えておきましょう。
②は亡くなった人と疎遠になっていたことなどにより相続の発生を知らなかった場合のルールです。
相続発生を知らなかったとしても、相続から10年間が経過したら遺留分を求める権利は消滅してしまいます。
相続発生~相続税申告までに必要な手続き
相続が発生してから相続税の申告を行うまでには、上記4つの手続きの他にも必要な手続きが発生します。
葬儀の完了と死亡届の提出
- 期限
- 死亡日より7日以内
- 必要な物
- 死亡診断書(死亡届と同じ用紙)
- 入手場所
- 死亡した地域もしくは本籍地の市区町村役場
- 手続きにかかる期間
- 即日
- 合わせて必要なもの
- 死亡診断書(死亡届と同じ用紙)・印鑑
- 提出先
- 死亡した地域もしくは本籍地の市区町村役場
亡くなった方の死亡が確認された後は、市区町村に対して死亡届を提出しなくてはなりません。
遺族が自分で出しても問題ありませんが、葬儀社などに葬儀を依頼した場合には、葬儀社が死亡届を出してくれることが多いです。
通夜や葬儀が滞りなく終わった後には初七日法要や四十九日法要などが行われますが、こうした中で相続についての話し合いをどこかのタイミングで始める必要があります。
通常、四十九日には遺族全員が集まる良い機会となりますので、この際に遺産分割協議の話し合い日程などを決めると良いでしょう。
遺言書の開示と検認手続き
- 期限
- なるべく早く
- 必要な物
-
- 戸籍書類
- 申立書類
- 費用
- 収入印紙800円分(一通につき)
- 提出先
- 家庭裁判所
- 備考
- 専門家に依頼する場合は別途費用が必要
亡くなった人が遺言書を残している場合には、その内容に沿って遺産分割が行われます。
公正証書遺言や秘密証書遺言の形で遺言がある場合には、遺言執行者に指名されている方が遺産分割事務を進めていきます。
自筆証書遺言がある場合には、遺言を発見した人が家庭裁判所に対して遺言検認の手続きを申し立てなくてはなりません。
家庭裁判所に対して遺言検認の申し立てをしたら、裁判所から相続人に対して検認を行う日程などが通知されます。
相続人の確定
- 期限
- なるべく早く
- 必要な物
-
- 法定相続人の戸籍書類
- 法定相続人全員の同意
- 費用
- 戸籍の取得費用(一通450円~)
- 手続きにかかる期間
-
- 窓口の場合…即日
- 郵送の場合…2~3日
遺言がない場合には、相続人全員が参加する遺産分割協議によって遺産相続の仕方を決めなくてはなりません。
そのため、まずは相続人となるのが誰なのか?を確定する手順を進めていきましょう。
相続人が誰なのか?の調査結果は、「相続関係説明図」という書類にまとめることが多いです。
亡くなった人の戸籍を確認し、法律上の親族関係があるのは誰なのかを調べていきますが、亡くなった人が離婚、再婚を経験している場合には、前妻や前夫との間の子供がいないかなども調べる必要があります。
遺産の確定
- 期限
- なるべく早く
- 必要な物
-
- 財産の種類
- 調査方法
- 不動産(土地・建物)
- 登記簿謄本、固定資産納税通知書、権利書(登記識別情報通知、登記済証)
- 借地権、借家権
- 登記簿謄本、賃貸借契約書、不動産業者への問い合わせ
- 貯金、現金
- 自宅金庫、通帳、カード、銀行の残高証明
- 生命保険金
- 保険証券、保険会社への問合せ
- 株式、その他有価証券
- 証券会社から送付される通知書、証券会社への問合せ、金庫等
- ゴルフ会員権
- 金庫等
- 宝石、骨董品
- 自宅、貸金庫、別荘等
- 自動車
- 車検証
相続人の確定を行うとともに、遺産分割の対象となる遺産の範囲を確定していきます。
亡くなった人が財産目録などの形で資料を残してくれている場合には遺産の確定もやりやすいですが、そのような資料がない場合には金融機関や法務局で財産の存在を証明する書類を準備していく必要があります。
遺産はプラスの資産だけではなく、借金などのマイナスの財産も含みますから、金融機関で借入金の残高証明を取得するほか、消費貸借契約書などがないか調査しなくてはなりません。
相続放棄
遺産が確定したら、相続人となる人全員に開示をして、相続放棄をする人には申し出てもらいましょう(相続放棄手続きは各自が家庭裁判所で申述して行います)
なお、相続人のうち、相続放棄をした人は遺産分割協議に参加してもらう必要はありません。
相続放棄は相続があってから3か月以内に行う必要がありますから、この期間が過ぎた後のタイミングであれば相続について誰が相続放棄を行ったかは確定した状態になっているはずです。
遺産分割協議
- 期限
- なるべく早く
- 必要な物
- 財産目録(財産の一覧)
- 協議内容
- 遺産をどう分けるか
- 作成書類
- 遺産分割協議書
遺言が残されている場合には遺言執行者に遺産分割の事務を進めてもらえば問題ありませんが、遺言がない場合には相続人が集まって遺産分割協議を行います。
基本的には法律で定められている分割割合(配偶者2分の1、子供2分の1などといったように決まっています)で遺産分割を行いますが、不動産などの不可分の財産が遺産に含まれている場合には、だれがどのように遺産を分割するかは話し合いが必要になります。
遺産分割協議がまとまったら、その内容を遺産分割協議書にまとめて相続人全員が署名押印します。
遺産分割協議書は、後で相続登記を行う際などにも必要になりますから、どの財産についての合意内容なのかが明確にわかる形で作成しなくてはなりません。
遺産の名義変更手続き
- 期限
- なるべく早く
- 名義変更が必要な遺産
-
- 不動産
- 預貯金
- 株式
- 公共料金
- 固定電話
- クレジットカード
- 自動車所有権移転(相続確定後15日以内)
遺産に不動産が含まれている場合には、遺産分割後に法務局で相続登記を行うのが一般的です。
相続登記は必ずしも義務があるわけではありませんが、相続登記をしないということは所有者名義が亡くなった人のままになっていることを意味します。
誰がどの財産をひきついだのかを明確にするためにも、相続登記はきちんと行うようにしましょう。
相続登記
土地や建物といった不動産の名義を、亡くなった人から相続人に変更することを、相続登記と呼びます。
この相続登記は、法定相続分による相続登記・遺言による相続登記・遺産分割協議による相続登記の3種類があります。
遺産分割協議による相続登記を行うためには、遺産分割協議書を法務局に提出する必要があります。
不動産の登記上の名義が誰になっているかは非常に重要ですから、法務局の窓口ではかなり厳密に遺産分割協議書の内容をチェックされます。
遺産分割協議書には相続人全員の署名とともに、実印の押印が必要ですし、印鑑証明も添付しなくてはなりません。
自動車の名義変更
亡くなった人が所有者となっていた自動車を遺産として引き継ぐ場合には、自動車の名義変更が必要です。
自動車の名義変更の手続きは運輸支局で行いますが、この手続き時にも遺産分割協議書が必要になります。
金融機関での手続き
遺産に銀行預金が含まれている場合、遺産分割協議で定めた分け方に応じて払い戻しをし、それぞれの相続人が受け取る必要があります。
金融機関側としては、本来権利のない人が払い戻しに来て誤って払い戻しをしてしまうことを避けなくてはなりませんから、払い戻しに来た人が本当に正しい相続人なのかを厳しくチェックします。
この払い戻し手続きの際には、遺産分割協議書の提出が必要になります。
また、銀行預金以外の金融資産(株式や債券など)についても名義を変更するためにはそれぞれの金融機関に対して遺産分割協議書を提示して手続きをする必要があります。
株式については現在は株券は原則として発行されず、電子記録として証券会社で所有者を管理しているのが普通です。
単に株券を受け取るだけでは所有者名義の変更はできていませんので、この点注意しておかなくてはなりません。
まとめ
今回は、遺産相続に関して期限が設けられている手続きについて解説しました。
本文でも説明した通り、期限内にこれらの手続きを行わなかった場合には、税額が増加したり、意に反したかたちでの遺産引継ぎを余儀なくされたりといった不利益が生じてしまいます。
特に、相続人の数が多い場合には、遺産分割協議に思いのほか時間を取られてしまうことが多いですから、できるだけ早い時期から手続きを進めていくのが適切です。
遺産相続に関しては弁護士や司法書士といった法律家(相続税については税理士)に相談しながら手続きを進めるようにしてください。