累進課税(るいしんかぜい)とは、税額を計算する元となる金額の増加によって、税率も上がる仕組みのことです。
相続税は相続財産が多くなるほど税率が高くなる累進課税の仕組みを採用しています。
用語の意味
累進課税とは課税標準(相続税なら遺産・所得税なら所得)が増えるに従い、適用税率が上がる課税方式です。
単純に税率を上げていく単純累進課税、課税標準を段階別に区分し前段階の超過分に対して高い税率を適用する超過累進課税、一定額までは累進税で一定額を超える部分を比例税とする累退課税などがあります。
日本の場合、所得税(分離課税とする配当所得や譲渡所得を除く)や相続税・贈与税に超過累進税率を適用しています。
累進課税の考え方
税金負担の考え方には2つあります。
応益負担は「公共サービスからの受益の程度に応じ税金を負担すべき」という考え方です。
応能負担は「支払える能力(担税力)」に応じ税金を負担すべき」という考え方です。
累進課税は、応能負担の考え方に基づいています。
相続税の超過課税
相続税の超過累進課税は、課税遺産相続ではなく法定相続分に応じる取得金額を課税標準として、累進税率を適用します。
最低税率(課税標準1000万円以下)は10%、最高税率(課税標準6億円超)は55%です。
贈与税の累進課税は相続税よりきつく、課税標準4500万円超で最高税率55%が適用されます。
相続税の実効税率
超過累進税率を採用しているため、いくらの遺産があれば何%の税率で課税されて相続税がいくらになるかを簡単に計算することはできません。
そこで、相続税の税額を知る際に役立つのが、相続税の早見表と実効税率です。
相続した遺産の額にもとづいて計算した、相続人全員で納める相続税の合計額と、その税額が遺産に占める割合を示しています。
例えば1億円の遺産を相続した時の税率は超過累進税率により30%となっています。
しかし子供2人で1億円の遺産を相続した場合、1,000万円以下の遺産には10%、1,000万円を超えて3,000万円以下の遺産には15%……と順番に税率をかけて計算すると、実際の相続税額は合計で770万円、実効税率は7.7%になるのです。
1億円の遺産があると30%の超過累進税率で計算して3,000万円の相続税を納付しなければならないということではないのです。
相続税額と実効税率を確認しておきましょう。
(1)配偶者がいない場合
遺産の額 | 子供1人 | 子供2人 | 子供3人 | |||
---|---|---|---|---|---|---|
相続税額 | 実効税率 | 相続税額 | 実効税率 | 相続税額 | 実効税率 | |
5,000万円 | 160万円 | 0.032 | 80万円 | 0.016 | 20万円 | 0.004 |
1億円 | 1,220万円 | 0.122 | 770万円 | 0.077 | 630万円 | 0.063 |
1億5,000万円 | 2,860万円 | 0.191 | 1,840万円 | 0.123 | 1,440万円 | 0.096 |
2億円 | 4,860万円 | 0.243 | 3,340万円 | 0.167 | 2,460万円 | 0.123 |
2億5,000万円 | 6,930万円 | 0.277 | 4,920万円 | 0.197 | 3,960万円 | 0.158 |
3億円 | 9,180万円 | 0.306 | 6,920万円 | 0.231 | 5,460万円 | 0.182 |
(2)配偶者がいる場合(法定相続分どおりに遺産分割し、配偶者の税額軽減を適用した場合)
遺産の額 | 子供1人 | 子供2人 | 子供3人 | |||
---|---|---|---|---|---|---|
相続税額 | 実効税率 | 相続税額 | 実効税率 | 相続税額 | 実効税率 | |
5,000万円 | 40万円 | 0.008 | 10万円 | 0.001 | 0万円 | 0 |
1億円 | 388万円 | 0.039 | 315万円 | 0.032 | 263万円 | 0.026 |
1億5,000万円 | 920万円 | 0.061 | 748万円 | 0.05 | 665万円 | 0.044 |
2億円 | 1,670万円 | 0.084 | 1,350万円 | 0.068 | 1,218万円 | 0.061 |
2億5,000万円 | 2,460万円 | 0.098 | 1,985万円 | 0.079 | 1,800万円 | 0.072 |
3億円 | 3,460万円 | 0.115 | 2,860万円 | 0.095 | 2,540万円 | 0.085 |
複数人で相続した場合の相続税の負担
先ほどの表で求めた金額は、すべての相続人が負担する相続税の合計額です。
実際に相続税を納付する際に複数の相続人がいる場合は、それぞれの相続人が負担する相続税額を計算しなければなりません。
相続税を計算する際は、まず相続人全員で納める相続税の合計額を求めます。
その後、各相続人が相続した遺産の割合で按分して、各相続人の相続税負担額を計算します。
遺産を多く相続した相続人の相続税の負担は大きくなり、少ない金額の遺産しか相続しなかった相続人は相続税の負担も小さくなるのです。
また、遺産をまったく相続しなかった人は相続税の負担がありません。
例えば、相続人が子供3人(長男・次男・長女)で1億5,000万円の遺産を相続した場合、先ほどの表から相続税の合計額は1,440万円であることが分かります。
この時、長男が50%、次男が40%、長女が10%の遺産を相続したとすると、それぞれの相続税の額は以下のようになります。
長男の相続税額 1,440万円×50%=720万円
次男の相続税額 1,440万円×40%=576万円
長女の相続税額 1,440万円×10%=144万円
相続税の計算例
それでは実際の遺産額と相続人の人数にもとづいて相続税の計算をしてみましょう。
計算例(1)
遺産額2億円、相続人が配偶者と子供2人の合計3人で配偶者が60%、子供がそれぞれ20%を相続した場合
①遺産額から「3,000万円+600万円×相続人の数」で計算した基礎控除の額を控除して課税遺産の額を計算します。
遺産額2億円-基礎控除額4,800万円=課税遺産の額1億5,200万円
②課税遺産の額を法定相続割合で分けて相続税の総額を計算します。
配偶者 1億5,200万円×1/2=7,600万円
7,600万円×30%-700万円=相続税額1,580万円
子供(1人あたり) 1億5,200万円×1/4=3,800万円
3,800万円×20%-200万円=相続税額560万円
相続税額の合計1,580万円+560万円×2人=2,700万円
③各相続人の納付額を計算します。
配偶者 2,700万円×60%=1,620万円
配偶者の税額軽減により0円
子供(1人あたり) 2,700万円×20%=540万円
配偶者の税額軽減により、配偶者の取得した遺産の額が1億6,000万円または法定相続分のいずれか大きい金額までは相続がかからないため、配偶者の相続した割合によって全体の相続税の額が変わります。
この場合、子供2人で合計1,080万円の相続税を納付することとなります。
計算例(2)
遺産額3億円、相続人が子供2人で長男が60%、次男が40%を相続した場合
①遺産額から「3,000万円+600万円×相続人の数」で計算した基礎控除の額を控除して課税遺産の額を計算します。
遺産額3億円-基礎控除額4,200万円=課税遺産の額2億5,800万円
②課税遺産の額を法定相続割合で分けて相続税の総額を計算します。
子供(1人あたり) 2億5,800万円×1/2=1億2,900万円
1億2,900万円×40%-1,700万円=3460万円
相続税額の合計 3,460万円×2人=6920万円
③各相続人の納付額を計算します。
長男6,920万円×60%=4,152万円
次男6,920万円×40%=2,768万円
この場合、子供2人で合計6,920万円の相続税を納付することに変わりありませんが、相続した遺産の額に応じてそれぞれの負担金額が変わることとなります。