終戦直後の第1次ベビーブーム(1947~49年)の時期に生まれたいわゆる団塊の世代は800万人に上るとされており、急成長した日本社会で存在感を示してきました。
そんな彼らも70歳を超え、間もなく本格的な相続を迎えます。
団塊の世代の資産は、不動産を除いても200兆円に達するとされています。これだけの相続が起きるとなると、当然トラブルも想定されます。
そこでトラブル未然防止の有効な対策が、遺言を残すことです。遺産の分割に関し故人の想いを綴った遺言書は、スムーズな遺産分割を後押しします。
ところが遺言書については、故人がその存在を周囲に明かさなければ、所在はもちろん、あるのかないのかさえ分かりません。スムーズに見つけ出すポイントはどこにあるのでしょうか。
遺言書には3種類ある
遺言書は民法によって、作成者・記録方法・秘密保持手段が定められており、いずれかの違いによって3種類に分かれています。
それ以外で作成しても効力を有さず、例えばビデオでの撮影、録画は一切認められません(パソコンによる文書作成に関しては、2019年1月の法改正により、財産目録に限り認められるようになりました)。
自筆証書遺言
自ら紙に書き写すのが、自筆遺言証書です(もちろん代筆はNGです)。
必要なのはペンと印鑑と便せんだけなので、実質的にコストゼロです。
ただし自筆証書遺言は、書き方次第で効力を失うケースも多いので注意が必要です。不動産なら住所表記だけでなく登記簿の地目・地番まで、銀行口座なら支店名・口座番号まで正確に記載すると同時に、相続人の遺留分にも気をまわしたいものです。
その他にも相続開始の時に、自筆証書遺言の封印したまま、家庭裁判所の検認を受けるケースが多いようです。必ずしも検認を受けないと効力を失うというわけではありませんが、「この遺言書は真正である」とのお墨付きを受けることで、相続トラブルの未然防止に役立ちます。
ちなみに検認手続きは、検認申立書(裁判所ホームページからダウンロード)に戸籍謄本等を添付するだけなので、司法書士に頼まなくても手続き可能なレベルです。
しかし最も考慮すべきは、遺言書の保管、そして(推定)相続人との情報共有です。遺言書は発見されず、そのまま遺産分割協議を始めるなどというケースも少なくありません。10年たって遺言書が見つかったなど、ドラマだけの話ではないのです。
もし遺言書の存在を故人より告げられていなかったら、それこそ家中探してでも見つけ出すはめになります。あると決まったわけではなく、徒労に終わることも覚悟しなければならないのです。
秘密証書遺言
公正証書遺言に似ていますが、遺言内容を公証人にも明かさない点が異なっています。
誰にも遺言を明かしたくないなら有効な方法ですが、一般的に使われることは少ないようです。
公正証書遺言
遺言作成者が自ら公証人役場へ出向き、証人2人が立会いのもとで作成するのが公正証書遺言です。作成者が病弱などの場合は公証人が自宅や老人ホーム等に出向くこともあります。
遺言者が遺言内容を口述すると、公証人はこれを筆記し、その内容を遺言者・証人に読み聞かせまたは閲覧により確認させます。
最後に公証人が、その遺言が公正に作成されたものであることを記したうえで捺印します。遺言書は、作成した公証人役場で保管します。
手数料は遺言の対象となる財産額によって異なるほか、公証人が出向いた場合は日当・交通費等が加算されます。
ちなみに遺言者や公証人の近親者などは証人にはなれません。これを欠格事由と呼びます。
欠格事由に引っかかったり、口述手続きに多少の不備があったりしても即座に遺言が無効になるわけではないようです。
公正証書遺言は検索できる
ところでこの公正証書遺言、相続開始の際はいちいち探し出す必要はありません。
1989年以降に作成した遺言なら、本人属性(氏名・生年月日等)や作成日・保管場所といったデータベースが遺言検索システム(日本公証人連合会)に登録されています。
誰が利用できるのか
この検索システムの利用者ですが、生前は本人に限られ、死後は利害関係者(遺言執行者・相続人など)がアクセスできます。
利用申請の手続き
最寄りの公証人役場に利害関係者又は代理が出向き、所定の書類を提出します。
公証人の所在地は下記を参照ください。
<提出書類>
- 死亡した事実を証明する書類(被相続人の戸籍謄本・死亡診断書等)
- 利害関係者であることを証明する書類
相続人であることを証明する場合は戸籍謄本(必要な戸籍謄本の範囲は相続順位によって異なる)を提出します。
この他、本人であることを証明するために、運転免許証などの顔写真がついた身分証明書と印鑑を持参します。申請者が代理人である場合は、利害関係者から代理人への委任状提出が求められます。
この遺言検索システムで確認できるのはあくまで遺言書の存否と、保管場所(公証人役場)です。中身を確認したければ、保管されている公証人役場に出向かなければなりません。
まとめ
「遺言はどこにしまったの?」と聞きたくても、作成者はもう答えてくれません。そうした意味で、公正証書遺言の検索機能は非常に助けになります。
コスト的な面はネックですが、もし遺言作成を考えているなら公正証書遺言を検討されてはいかがでしょうか。