この記事でわかること
- 不動産の相続登記について理解できる
- 相続登記申請に必用な書類がわかる
- 相続登記申請の手続きの流れがわかる
親や祖父母の代からの不動産、相続登記は済ませていますか?
預貯金については、相続発生後の早い段階で手続きを済ませることが多いかもしれません。
しかし、不動産については相続登記は義務ではありませんので、特に相続の手続きをしないでいても、住宅などをそのまま使用することができます。
そのため「不動産の相続登記は先延ばしにしていた」という方もいるのではないでしょうか。
不動産の所有者は、その所有権を登記していないと、持ち主であることを第三者に主張できません。
また、長く登記しないままにしておくことで、大きなデメリットが発生する可能性もあります。
今回は、相続登記について、ならびに相続登記申請に必要な書類と手続きの流れについて説明します。
相続登記が必要な場合
相続登記が必要な場合とは、被相続人が不動産の所有者であるときです。
厳密にいえば、相続登記という申請手続きはなく、相続を原因とする所有権移転登記になります。
相続が発生した時、つまり被相続人が亡くなった時、その所有する不動産は相続財産として、法律的には相続人全員の共有物となります。
法律の決めたとおりに登記する以外にも、遺産分割協議を行い、相続人のうちのひとりが所有者として登記することもできます。
相続税については、その申告が「相続開始後10カ月以内」と期限が定められていますが、相続登記は任意であり義務ではないため、期限がありません。
ただし、後述する登記をしなかった場合のデメリットを考えると、相続登記は早めにしておく必要があるといえるでしょう。
相続登記は法務局にて行う必要がある
いざ相続登記をするとなれば、法務局で登記の手続きを行います。
法務局とは、法務省の地方組織の一つで、次のような業務を行っています。
- ・不動産登記
- ・成年後見登記
- ・商業・法人登記
- ・供託
- ・戸籍・国籍
- ・人権擁護
そもそも不動産登記とは、土地や家屋などの不動産の権利を公示するためのものです。
所有権だけではなく、住宅ローンの抵当権なども、法務局で登記の手続きをすることになります。
前述のように、相続登記は先延ばしにされることが多く、なかには何世代にもわたって先延ばしが続き、所有者が把握しにくくなっている不動産もあります。
その結果、土地の有効活用の妨げとなっているケースも多く発生し、国は不動産の未登記問題に頭を悩ませているのです。
現在は相続登記を含めた不動産の登記は任意であり、義務ではありませんが、今後相続登記については義務化の動きが始まっています。
義務違反者には過料が科される案も出ていますので、「いつかすれば良い」と考えていた方も、早めに済ませておく方が良いでしょう。
法務局でできる相続に必要な書類の簡略化
相続が発生すると、不動産登記以外にも、被相続人の所有財産に応じて、銀行や証券会社・生命保険会社など、さまざまな場面で手続きをする必要が出てきます。
相続人はその都度必要な書類を提出しなければいけませんが、平成29年に書類の一部を簡略化できる制度が始まりました。
この制度は「法定相続情報証明制度」と呼ばれるもので、法務局に戸籍一式を提出すれば、法務局から「法定相続情報一覧図の写し」が交付されます。
これまでは銀行などに戸籍謄本一式を提出していたところ、「法定相続情報一覧図の写し」で済ませられます。
書類提出漏れが防げたり確認の手間が短縮できたりと、提出する相続人、書類を確認する銀行などの双方にとってメリットがあるでしょう。
写しの発行手数料は無料ですので、積極的に利用したい制度ですね。
相続登記申請に必要な書類・手続き内容
それでは、実際に相続登記の申請に必要な書類、手続き内容について説明します。
一般的に、相続登記には以下のような書類が必要になります。
相続登記申請に必要な書類
- ・被相続人の住民票の除票
- ・被相続人の戸籍謄本等
- ・相続人の住民票、印鑑証明書
- ・固定資産税評価証明書
- ・登記申請書
- ・相続関係説明図
- ・遺産分割協議書
被相続人の住民票の除票
はじめに、被相続人の住民票の除票を、被相続人死亡時の現住所の役所で請求します。
相続は被相続人が亡くなったときに発生しますので、除票で亡くなっていることを示すことで、相続登記の原因証明となります。
被相続人の戸籍謄本等
次に、被相続人の戸籍関係の書類を集めます。
戸籍は現住所の役所ではなく、本籍地の役所で請求しなければなりません。
必要な書類は、被相続人の戸籍謄本や原戸籍などです。
相続人を確認するため、被相続人が生まれてから亡くなるまでの一連の戸籍が必要です。
結婚などで転籍があれば、その前の戸籍とさかのぼって、生まれたときの戸籍まで入手します。
相続人の住民票、印鑑証明書
相続人の住民票は、相続人の住所証明として必要になります。
印鑑証明書は、遺産分割協議書に添付するものなので、後述の遺産分割協議書が必要ないケースであれば、これも必要ありません。
また、遺産分割協議書で持分を放棄していたとしても、住民票が必要な場合もあります。
戸籍に記載されている所在地と、住民票の住所表記が異なる場合、住民票をもって相続人の同一性を証明しなければなりません。
固定資産税評価証明書
所有権移転の登記に必要となる、登録免許税の算定のために必要な書類です。
固定資産税の評価額が、登録免許税の課税標準となります。
別々の市町村にある複数の不動産について相続登記をする場合は、それぞれの固定資産税評価証明書が必要です。
登記申請書
相続人あるいは司法書士などの代理人が作成します。
登記申請書には、登記の目的、登記の原因などを記載します。
相続関係説明図
被相続人と相続人の関係を説明するものです。
戸籍謄本から相続人を列挙し、その関係を図にします
遺産分割協議書
複数の相続人がいて、遺産をどのように分割するか取り決めを行った場合に作成します。
相続人全員が実印で押印し、印鑑証明書を添付します。
相続人が一人だけ、もしくは法定相続分どおりに分割するということもありますので、遺産分割協議が必要ない場合もあります。
その他の書類
もしも他の相続人が相続放棄をしているようであれば、代わりに相続放棄申述受理通知書を添付します。
相続放棄は、被相続人の管轄の家庭裁判所に申述を行い、それが認められれば、相続放棄申述受理通知書が渡されます。
添付書類の簡素化
これまでたくさんの書類が必要であることをご説明しましたが、平成28年に相続登記の申請をする際に添付する必要書類の見直しが行われ、提出書類が簡素化されました。
- ・滅失などにより除籍などの謄本を提供することができない場合には、「他に相続人はない」旨の相続人全員による証明書の提供は不要
- ・所有権の登記名義人である被相続人の登記記録上の住所が戸籍の謄本に記載された本籍と異なる場合、被相続人の同一性を証する情報として住民票の写しの添付は不要
- ・所有権に関する被相続人名義の登記済証が提供された場合、不在籍証明書及び不在住証明書など他の添付情報の提供は不要
相続に関する書類は複雑で、それぞれの取り寄せひとつにしても大きな手間や時間がかかることがあります。
書類が簡素化されたことで、相続登記などの手続きがしやすくなったのではないでしょうか。
相続登記申請の手続き
書類が準備できたら、相続登記の申請を行います。
相続登記は、その不動産が所在する管轄の法務局で行います。
法務局の窓口で、登記申請書に登録免許税の分の収入印紙を貼るか、現金納付の場合はその領収書を添付して提出します。
遺産分割協議書の返還を希望する場合は、提出の際に原本還付の旨を申し出れば、登記の完了通知と一緒に返還されます。
完了通知は、補正がなければ、資産の数などにもよりますが、4、5日くらいかかります。
完了通知や登記識別情報を受け取ったら、相続登記の完了です。
不動産相続や名義変更は管轄する法務局でしかできないのか
繰り返しになりますが、相続登記は、その不動産が所在する管轄の法務局で行う必要があります。
遠く離れた故郷の実家を相続した場合などは、その故郷の法務局で申請をしなければいけません。
また、所有する不動産が多く、法務局も管轄が異なれば、それぞれに相続登記の手続きが必要になりますので、ある程度の時間がかかることを覚えておきましょう。
以前は出頭主義といって、当事者かその代理人が必ず法務局の窓口で申請する必要がありましたが、現在は次の申請ができるようになっています。
- ・窓口
- ・郵送
- ・オンライン
窓口は、管轄の法務局へ出向いて窓口で直接申請をする、従来の方法です。
あらかじめ予約をとれば申請の相談にも応じてくれるため、「手続きが不安だから、分からないところを教えてもらいたい」という方に向いています。
窓口での相談が必要ない方であれば、郵送での申請もできます。
オンラインで手続きする方法もありますが、パソコン、マイナンバーカード、カードを読み取るカードリーダーが必要です。
確定申告をイータックスで行っていれば、登記の手続きも可能です。
法務局のホームページからオンライン申請用総合ソフトのダウンロードが必要ですので、書類の準備と並行して用意しておきましょう。
郵送やオンラインの方法を使えば、遠い法務局への申請もしやすくなります。
なお、オンライン申請であっても、登記簿謄本などの必要書類は窓口または郵送で提出する必要がありますので注意してください。
相続登記をしない場合のデメリット
相続登記を済ませない場合のデメリットとは何なのでしょうか?
相続登記の済んでいない不動産は売却や担保としての利用ができない
まず、相続登記の済んでいない不動産は、一般的に売却するなどの処分ができません。
相続財産は、法律上は相続人のものではありますが、通常は相続登記をしてはじめて処分ができるようになります。
住宅ローンの抵当権の設定も同様です。
相続登記には期限がありませんので、「すぐに売却の予定もないし、売却したくなったときに登記すれば良い」と考えている方もいるかもしれませんが、それはおすすめできません。
時間が経てば経つほど、相続登記はより面倒になりがちだからです。
相続登記をしない時間が長くなるほど相続の手続きは困難
相続登記をしない時間が長くなるほど関係者が増えていくため、相続登記の手続きが複雑になります。
何代にもわたって一度に行う相続を「数次相続」といいます。
一回の相続でも、相続人全員の同意を得るには、時間を見つけて連絡を取り合ったりと面倒なものです。
それが数次相続ともなると、同意を得なければならない相続人の数がかなり増えている場合もあります。
被相続人Aの相続人として、B・C・Dの3名がいたとします。
実質的に不動産を相続したのがBだけだったとします。
相続登記を放置している間にC・Dが亡くなりました。
C・Dそれぞれ3名の相続人がいたとします。
遺産分割協議書に印を押してもらう人数は、相続が発生した時点ではBを除けばC・Dの2名でしたが、今ではC・Dの相続人の6名に増えてしまいました。
スムーズに同意が得られる場合はまだ良いですが、行方が分からなくなっている相続人がいたり、相続に同意が得られないケースも考えられます。
そのような場合は、さらに相続登記が難航することが想像できます。
相続登記は面倒なようですが、先延ばしにするともっと面倒になる可能性があるので、早めに済ませるのが一番おすすめです。
まとめ
今回は、不動産の相続登記について解説しました。
面倒な手続きと思いがちな相続登記ですが、書類が簡素化されたことなどから、以前ほど複雑ではないということがご理解いただけたかと思います。
相続登記は早めに済ませることが一番です。
手続きなどで困った場合は法務局や専門家などのサポートを受けながら、早めに相続登記を行いましょう。