相続放棄 手続きの流れ・スケジュール・注意点について徹底解説

たとえ親からの相続でも、「実は多額の借金があった」というケースは少なくありません。

親にも歩んできた人生があり、子どもたちも伺い知らない意外な一面を抱えていたりもするのです。

ましてや、叔父・叔母や疎遠な兄弟からの相続ならなおさらです。

思わぬ遺産が転がり込むと喜んでいたのに、反対に借金を背負いこまされたら泣くに泣けません。

法的な対抗手段は、相続の放棄です。

その手続きは、期限が短いうえに実に煩雑です。

ただし、事前に手順をきちんと理解をしておくことで、スムーズに進めることもできます。

この記事では、相続放棄の手続き・タイムテーブル・ポイントについて、わかりやすく解説します。

なぜ相続放棄するのか

具体的な手続きの前に、「そもそもなぜ相続放棄するのか」について説明します。

相続放棄の目的

相続放棄の目的はさまざまですが、一般的には次の3つに区分されます。

  • 被相続人に多額の借金がある、または借金の連帯保証人になっている
  • 他の相続人と関わり合いになりたくない
  • 他の相続人に家業を継がせたい、同居していた他の相続人に持ち家を相続させたい

こうしたはっきりしたケースでは、粛々と相続放棄の手続きを進めて差し支えありません。

問題なのは、借金や連帯保証の存否が把握できていないケースです。

債務が確認できない場合

債務者が亡くなったとして、債権者は相続人のところにのこのことやってくるでしょうか。

よくあるケースが、相続放棄の期限が来るまでじっと息を潜めているパターンです。

期限切れと同時に突然現れ、相続人に債務の存在を知らせると同時に、借金の返済を迫ります。

相続人は逃れることができません。

ですから相続人は、債務が確認できない場合は、被相続人が借金や連帯保証をしていないか、まず確認しなければなりません。

具体的には自宅に届いている郵便物を調べ、督促状等が届いていないか確認します。

通帳にも借金返済の痕跡が残っている可能性が高いので丹念に調べましょう。

地道な作業でたどっていくと、故人の意外な素顔に出会うことも少なくないのです。

相続放棄の流れ

基本タイムテーブル

相続放棄の期限は、相続の開始があったことを知った日から3か月以内とされています。

手続きが煩雑なうえ期間が短いですから、初七日法要が終わったらさっそく準備に取り掛かることをお勧めします。

最初の1か月半で被相続人のプラス・マイナスの遺産を棚卸し、相続放棄するかどうか決断します。

次の1か月が相続放棄の手続き期間、残り半月は予備期間です。

意外と余裕があると見えますが、実際は忙しい仕事の合間に相続放棄手続きを進めなければなりません。

例えば、相続放棄に当たっては故人の出生から死亡まですべての戸籍謄本を取り寄せる必要があります(理由は後述)。

過去の戸籍を取り寄せたら、故人には離婚歴があり他に子供がいることが分かった、というケースもあります。

戸籍謄本の取得には、それぞれ本籍地の所在する市区町村へ申請します。

最近は戸籍謄本をコンビニでとれる(ただしマイナンバーカードは必須)自治体も増えましたが、電算化される前の古い戸籍謄本には対応していないので、直接出向くか郵送してもらわなければなりません。

最近は、土日にも行政サービスセンターや出張所で戸籍謄本交付に対応してくれる親切な自治体も増えました。

ただし、やっぱり古い戸籍には対応していません。

結局は、平日動かざるを得ないことも少なくないのです。

それでなくても納骨(墓地探しのケースも)や遺品の整理、公共料金・電話・ケーブルテレビの解約や未払分の支払い、死亡に伴う自治体への届け出などやることはたくさんあります。

3か月間のタイムスケジュールをカレンダーや手帳に書き込んで、いつまでに何をやるかを頭に叩き込みましょう。

相続放棄の手続き1 申述先の管轄家庭裁判所を確認する

相続放棄を申述する管轄裁判所は、被相続人の死亡時の住所を管轄する家庭裁判所です。

家庭裁判所は名古屋・青森・静岡といった各県に置かれた本庁の他に、多数の支部・出張所を擁しています(例えば東京家裁なら八丈島・大島出張所、立川支部)。

被相続人の住所がどの本庁・支部・出張所で管轄されているかは、裁判所のホームページで確認できます。

必要な書類を準備する

相続放棄申述書に所定の事項を記載の上、被相続人の住民票又は戸籍謄本、放棄を申請する相続人の戸籍謄本、800円分の収入印紙、返信用郵便切手を提出します。

その他、放棄を申述する相続人と被相続人の親族関係によって、以下の戸籍謄本が必要になります(戸籍謄本は1通450円、除籍謄本・改製原戸籍謄本は1通750円)。

申述人 必要な戸籍謄本
被相続人の配偶者 ・被相続人の死亡の記載がある戸籍謄本
被相続人の子又は孫・ひ孫などの代襲相続人(相続第1順位) ・被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍謄本
・被相続人の子(またはその代襲相続人)が死亡している場合にはその死亡が記載された戸籍謄本
・申述人より下の代の直系尊属が死亡している場合にはその死亡が記載された戸籍謄本
第1順位の申述人が提出した戸籍謄本は省略できます。
被相続人の兄弟姉妹及び
その代襲相続者のおい・めい(相続第3順位)
・被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍謄本
・被相続人の子(またはその代襲相続人)が死亡している場合にはその死亡が記載された戸籍謄本
・被相続人直系尊属の死亡が記載された戸籍謄本
・代襲相続人が申請者の場合は本来の相続人の死亡が記載された戸籍謄本
第1・第2順位の申述人が提出した戸籍謄本は省略できます。

照会を受ける

相続放棄申述書を提出すると、1週間前後で裁判所から質問(照会書)が送られてきます。

回答書が同封されていますので、申述書と矛盾しないよう記入して返送します。

照会書の質問事項は一般的に、相続の開始があったことを知った日・申立てを自己でしたか・相続放棄の理由(以上は申述書の再確認)、相続放棄は自分の意思か、被相続人の財産を処分していないか、相続放棄の意思に変わりはないか、といったところです。

受理される

家庭裁判所が相続放棄の申述を受理すると、「相続放棄申述受理通知書」が送られてきます。

相続放棄手続きは以上です。

ただし債権者によっては、「相続放棄申述受理証明書」を求めてくるケースもあります。

証明書の交付申請書は、通知書に同封されています。

手数料は150円です

ちなみに通知書は、相続関係確認のために第三者も交付申請できます。

ただしこの場合は、事件番号・受理日・申述人の記載が必要で、利害関係を証明する書面も提出しなければなりません。

事件番号などが不明の場合は、相続放棄の申述の有無を照会します。

相続放棄に当たって注意すべきポイント

申述人の資格

20歳以上なら一般的には本人が申述できます。

20歳未満の場合は代理人に申述を依頼します。

20歳未満の相続人が複数いる場合には、特別代理人による申述が必要です。

相続放棄申述書について

用紙は裁判所のホームページからダウンロードできます。

記入例もホームページで確認できます。

http://www.courts.go.jp/vcms_lf/10m-souzokuhouki.pdf

http://www.courts.go.jp/vcms_lf/7427souzokuhouki-seizin.pdf

申述書には以下の事項を記載します

添付書類

申述人の氏名(認印を押印)・住所・電話番号・生年月日・職業・被相続人との関係
(未成年者の場合は法定代理人の氏名・住所・電話番号)

被相続人の本籍地・氏名・職業・最後の住所・死亡年月日

申述の理由(相続の開始があったことを知った日・放棄の理由・財産負債の概略等

相続放棄した場合は相続権が移転する

相続人が子供たち(相続第1順位)である場合、相続人が相続放棄しても代襲相続は生じません。

今度は相続権が第2順位(直系尊属)に移ります。

直系尊属全員がすでに死亡しているまたは相続放棄した場合には、今度は第3順位(兄弟とその代襲相続者)に移転します。

つまり相続放棄は直接の相続人だけではなく、第3順位まで全員が手続きしなければなりません。

ですから自分たちが相続放棄をしたら、第3順位の親族にまで連絡しなければならないのです。

では、今度は自分が第3順位のケースを考えてみましょう。

自分の兄弟が亡くなって被相続人の子供たち(相続第1順位)が相続放棄した場合で、気を回して自分たちにきちんと連絡してくれれば別ですが、もしかしたら連絡をくれないかもしれません。

これでは相続放棄の申立てができるかどうか、判断がつきません。

不安な場合は、家庭裁判所に照会申請書を提出して、相続放棄申述の有無を確認します。

相続の放棄の事実がある場合は事件番号・受理日・申述人を、事実がない場合はその旨の証明書を発行してくれます。

なお申請書には、相続人目録・被相続人の戸籍謄本と住民票(本籍地記載)・申請人の戸籍謄本と住民票(本籍地記載)・相続関係説明図を添付します。

被相続人の財産を処分してはいけない

被相続人の預金を引き出して葬儀費用・墓地や墓石の購入費用に充てた、返済期日が来た被相続人の借金を弁済した、といったケースは別として、一般的に被相続人の財産を相続した場合は「法定単純承認」といって自動的に相続されたとみなされ、相続放棄申述は受理されません。

その他、被相続人の財産を隠匿した場合も同様です。

たとえこれらの事実を隠して、家庭裁判所に相続放棄が受理されたとしても、債権者の訴えで無効とされる可能性があります。

生前贈与を受けていたら相続放棄できない?

原則として、生前贈与を受けていても相続放棄の申述は受理されます。

相続放棄申述の心理において、生前贈与の有無が問題となることもありません。

ただし、生前贈与を受ける時点で贈与者(被相続人)に多額の債務があることを知っていた場合には、贈与行為自体が詐欺行為とみなされる可能性があります。

例えば、被相続人から不動産の生前贈与を受けていた場合には、債権者からの訴えにより贈与行為の取り消しが認められれば、所有権移転登記を抹消しなければいけません。

ただしこのケースでも相続放棄自体が無効とされるわけでなく、生前贈与財産は失うこととなりますが、それ以上に被相続人債務の弁済を求められることはありません。

相続財産に該当しない財産

生命保険金や退職金(受給権が支給する会社の規程に定められていて相続順位に左右されないもの)などは、相続人の固有財産であり、放棄しなければいけない相続財産に該当しません。

被相続人の死亡に伴い受給権が発生する遺族年金も、相続人固有の財産です。

遺産分割協議と相続放棄

遺産分割協議書はあくまで相続人間の合意形成であり、協議書に相続放棄が明記されたとしても第三者への対抗要件とはなりえません。

あくまで裁判所に申述してはじめて相続放棄が認められるのです。

同時に協議書に債務の弁済者を明記したとしても、債権者に対しては無効です。

その相続人が債務を弁済できない場合は、他の相続人が連帯して弁済義務を負います。

相続の放棄だけでは済まない人間関係

実は、相続放棄の決断に当たってもう1つ配慮しなければいけないことがあります。

それは故人が背負ってきた「義理」です。

疎遠な親族なら別ですが、親が抱えていた借金なら、当然向き合わなければならない問題です。

特に地方の小都市で実家が事業を営んでいた場合、債権者とも昔から顔なじみといったケースも少なくありません。

相手も無理をして課しているのかもしれません。

あくまで相続放棄は大前提として、ではどうするかを債権者と話し合う、そんな選択肢も考慮に入れるべきでしょう。

最後に

自力でやれば出費は抑えられる

相続の放棄を依頼すれば、弁護士の場合で5万円、司法書士でも3万円が相場です。

相続放棄は遺産が転がり込んでくるわけではないので、極力出費は抑えたいところです。

手続きを自分でこなせば、こうした料金はゼロで済みます。

家庭裁判所が窓口なので、一見敷居が高く思える相続放棄手続きですが、一般的な係争案件と根本的に異なるのは訴える相手がいない点です。

手続きは煩雑ですが、きちんと手続きを把握しておけば出来ないレベルではありません。

裁判所に問い合わせれば丁寧に指導してくれますし、ホームページには手続きがわかりやすく記載されています。

それでも、次のような場合には専門家への依頼を検討すべきです。

専門家への依頼を検討すべきケース1

被相続人が債務超過に陥ってる可能性が高く、かつ、相続人同志の仲があまり良くない又は相続人の中に素行不良の人物がいるといったケースでは、不測の事態も考えられます。

その他、配偶者と子供たちが親族関係にない(連れ子扱い)、配偶者が日本国籍を有していないなど、世の中にはさまざまな事情を抱えた人がいます。

弁護士のような第三者に間に入ってもらった方が、話がスムーズに進められます(司法書士は代理権が無いので対応不可)

専門家への依頼を検討すべきケース2

被相続人が債務超過で、相手が大手の金融機関ならそんなに手荒な真似はしないでしょう。

一方で、(闇金とまではいかなくても)市中の金融業者が債権者の場合、あの手この手で債権回収を図ってきます。

さらに債権者が被相続人と個人的な知り合い、あるいは親族ということになると当事者間での解決は難しくなります。

代理権を行使できる弁護士への依頼をお勧めします。

専門家への依頼を検討すべきケース③

相続放棄の手続きは自力でやれるにしても、戸籍謄本の取り寄せなどに時間がかかるのは確かです。

お仕事で忙しくてそれどころではないのなら、依頼を検討すべきでしょう。

ケース1のように懸案事項を抱えているのでないのなら、弁護士ではなく司法書士への依頼で十分で、その方がコストを抑えられます。

専門家への依頼を検討すべきケース4

本来の申述期限は、「相続の開始があった日から3か月」ではなく「相続の開始があったことを知った日から3か月以内」です。

「相続の開始」とは、「被相続人が死亡し」かつ「自分が相続関係にあることとなった」日で、通常は死亡日とイコールです。

そして一般的には、死亡日と「死亡を知った日」もイコールです(特に相続関係にある立場なら)。

以上を踏まえると、死亡した日から3か月以内の申述なら、何の問題もなく裁判所に受理されます。

問題は、死亡日から3か月を超えた場合です。

故人とは疎遠で死亡の連絡を受けた日が遅かった、死んだのは知っていたが当初は相続人ではなかった(その後先順位の相続人が相続放棄をし自分が相続人になった)等の事情があれば、死亡日から3か月を過ぎていても、相続の放棄が認められます。

申述書にも、「相続の開始があったことを知った日」の記載欄があります。

しかし申述書に記載しただけで済む話ではありません。

「死亡後に相続の開始があったことを知った」を証明するために、上申書の提出を家裁より求められることもあります。

こうなってくると素人の手に負えません。

その他、被相続人が手広く事業を行っていた、または財産が国内外に広く分散しているような場合、財産や債務の把握には時間がかかり、3か月では調べきれない事態も想定されます。

3か月の間に相続を放棄するか否かの情報が収集できない事情があると認められる場合には、3か月経過後の申述ができるケースもあります。

まず、「相続の承認又は放棄の期間の伸長の申立て書」を管轄の家庭裁判所へ提出します。

当然これだけで済む話ではなく、裁判所からの照会に対応しなければなりませんし、疎明資料(申述の趣旨を明らかにするための証拠資料)も求められます。

専門家に依頼されることをお勧めします。

ちなみに死亡日から3か月を過ぎての申述は、たとえ裁判所に受理されたとしても、後になって債権者から無効の訴えがなされることもあります。

それほどナーバスな問題なのです。