相続税対策は何をすればよいのか?

「相続税や贈与税の節税対策は少しでも早めに、という税理士の広告はよくみかけるけど、何から始めて良いのかさっぱり…。自分が死んだ後の準備なんてなんだか気が進まないし…」

一定額以上の財産を所有している人が亡くなった場合、相続人となる遺族は財産を相続した割合に応じて相続税を負担しなくてはなりません。

注意点としては、相続税の納付は期限(相続が発生してから10ヶ月)までに現金で収めないといけない点です。

もし相続の対象となる財産の多くが土地や建物などの不動産である場合には、相続税を現金で納付しなくてはならないために先祖代々の土地を売却しなくてはならない…というようなケースも少なくないのです。

ここでは相続税対策として何から始めていいのかよくわらかない…という方向けに、節税対策の基本的な考え方について解説させていただきます。

【対策1】まずは相続税計算の基本的な仕組みを知っておこう

まずは相続税の基本的な計算方法を理解しておきましょう。

相続税は以下の計算式によって計算します。

【(相続したプラスの財産−マイナスの財産)−基礎控除額】×税率−控除額

相続は借金などのマイナスの財産についても行われますから、例えば住宅ローンの残っている住宅を相続したというような場合には、住宅の評価額から住宅ローン残高を差し引きした金額が遺産額ということになります。

上の計算式で「基礎控除額」については平成27年以降は改正があり、「3000万円+600万円×法定相続人数」で計算することになります。(以前よりも課税対象となる人は多くなっています)

【対策2】特に節税効果が高い2つの方法を知っておこう

相続税の計算を行うときには、利用できる節税方法をフル活用して少しでも相続税の負担が小さくなるようにしなくてはなりません。

実際に相続税の計算と申告納付を行う際には税理士などの専門家に相談するのが適切ですが、ここでは代表的な2つの節税対策(1 小規模宅地の特例と、2 相続税の配偶者控除)について大まかな内容を理解しておきましょう。

小規模宅地の特例

小規模宅地の特例は、相続財産に宅地(住宅を建てるために使っている土地)が含まれている場合に、その土地の相続財産としての評価額を最大80%減額(土地を住宅として使っているか、賃貸アパートなどのために使っているかによって上下します)してもらえる方法です。

相続財産の評価額が下がれば下がるほど、相続税の負担も小さくなりますから、遺産の多くが宅地であるというような場合にはこの方法を使うことで相続税の金額を大幅に小さくできる可能性があります。

小規模宅地等の特例
貸付用

宅地の評価額

50%減

(例)
適用前 5,000万円
適用後 2,500万円
事業用
居住用

宅地の評価額

80%減

(例)
適用前 5,000万円
適用後 1,000万円
相続税の負担が大幅減!

相続税の配偶者控除

配偶者が相続人となる場合には、法律上決まっている割合の範囲内(法定相続分といいます)でその配偶者が相続財産を相続する場合には、相続税がかかりません。

また、遺言書等によって法定相続分よりも多い金額の財産を相続する場合であっても、最大1億6000万円までの相続財産であれば相続税は非課税となります。

《相続税の配偶者控除とは?》
  • 配偶者が相続する財産は、評価額1億6000万円までは税金がかかりません。
  • 実際の取得金額が1億6000万円
    又は法定相続分以下なら相続税はゼロ
  • 実際の取得金額が1億6000万円
    又は法定相続分以下なら差額部分に対して相続税が発生
  • 【対策3】生前贈与によって課税対象となる相続財産を分配しておく

    相続税は亡くなった時点での相続財産の評価額合計に対して課税されます。

    亡くなった人が所有していた相続財産の金額が大きければ大きいほど相続税の負担も大きくなるということですから、できる限りこの相続財産の合計額を小さくしておくことが節税対策の基本となります。

    具体的には、被相続人となる人の生前に家族等に対して財産を分け与えておくのが有効です(これを生前贈与といいます)

    ただし、国側も相続税の取り分が少なくならないようにするために、生前に行われた贈与に関しては贈与税という形で課税する仕組みを設けています。

    もっとも、国は、財産は1人の人がまとまった形で所有しているよりも、多くの人に行き渡るように所有されている方が望ましいと考えているため、生前贈与を活発に行ってもらうために以下のような特例措置を設けています。

    暦年贈与

    「毎年、少しずつ贈与すれば贈与税はかからない」というのは多くの人が一度くらい耳にしたことがあるのではないでしょうか。これは「暦年贈与」と呼ばれる方法ですが、受贈者(もらう人)1人あたり基礎控除と呼ばれる非課税枠があり、1年で110万円とされています。これを上手に使えば少しずつ相続財産を減らしていくことができ、かつ贈与税も回避できるということになります。1年の間であってもたとえば5人の相続人に110万円ずつ贈与すれば、年間550万円ずつ相続財産を圧縮できるわけです。つまり、それほど相続開始までの猶予がない人でも割と早いペースで相続税対策を進めることができます。ただ、相続開始前の3年以内になされた贈与は「相続財産に持ち戻して考える」ということになっているため、生前贈与で相続税対策をするのであれば早く始めるに越したことはありません。

    相続時精算課税制度

    贈与税は本来お金を渡すつど納める必要がありますが、税務署に申告を行い相続時精算課税制度を選択すると相続が発生するまでその贈与税の納付をまってもらうことができます。

    一定の要件を満たせば合計2500万円までの財産を非課税で贈与できるという制度です。子供の住宅ローンの支援をしたい、起業するので資金を出してあげたいなど、生前に一気に多くの財産を移したい人には適した方法です。ただ、気をつけたいのは相続の時に相続時精算課税を使って贈与した財産を相続財産の中に戻して計算しなければならないということです(もちろんすでに納めた贈与税の分は差し引くことができます)。つまり、元々それらの財産を考慮しても相続税がかからない範囲の人(相続税の基礎控除範囲内に収まっている人)であれば非課税のメリットを受けられることになります。

    ただし、気をつけなければならないことが2点あります。

    注意点1 選択届出書を提して、贈与税の申告を行う

    相続時精算課税を選んだ場合は、最初に適用を受ける確定申告の際に「選択届出書」を提出し、贈与があった翌年には申告をするようにしなくてはなりません。

    注意点2 暦年課税と相続時精算課税はどちらかしか選べない

    暦年課税と相続時精算課税はそれらのうちどちらかしか使うことができません。つまり、いったん相続時精算課税を選択してしまうと、暦年課税に戻すことができないため、最初に利用の判断をする際はくれぐれも慎重に行わなくてはならないということです。もし相続時精算課税を選ぶと基礎控除が使えなくなりますから、少額の贈与を行った場合でもすべて申告が必要になるという煩わしさがあることも覚悟しなければなりません。

    結婚、子育て資金の一括贈与

    20歳〜49歳までの子に対して1000万円までの結婚、出産、子育てに関するお金を渡した場合、そのお金に関する贈与税は非課税となります。

    結婚に際して支払われる資金 ※結婚資金等は300万円が上限

    ・挙式費用、衣装代などの婚礼費用(婚姻の日の1年前の日以後に支払われるもの)
    ・新居(賃貸)の家賃・敷金・引越費用(一定の期間内に支払われるもの)

    妊娠、出産および育児に要する資金

    ・不妊治療、妊婦検診に要する費用
    ・分娩費、産後ケアなどに要する費用
    ・子の医療費、幼稚園・保育園の保育料など

    教育資金の一括贈与

    30歳未満の子や孫に対して教育のために使うお金を渡した場合、1500万円までであれば贈与税が非課税となります。
    この特例を使用する際は、贈与者と受贈者のあいだで贈与契約を結び、金融機関経由で「教育資金非課税申告書」を税務署に提出した上で、受贈者名義の口座に預金する必要があります。

    教育資金一括贈与の仕組み図

    教育資金一括贈与の仕組み図

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    ※教育資金一括贈与の仕組み図

     

    教育資金の対象となるもの

    学校等に対して直接支払われる資金

    ・入学金、授業料、入園料、施設設備費または入学試験の検定料など
    ・学用品の購入費や修学旅行費、給食費など学校等における教育に伴い必要な費用など

    学校等以外に対して直接支払われる資金(上限500万円)

    ・学習塾やそろばんなど教育サービスに関する使用料など
    ・スポーツや文化芸術に関する活動、その他教養の向上のための活動に関わる指導への対価など

    住宅取得等資金贈与の特例

    マイホームを購入するために両親から資金援助を受けた場合、最大3000万円まで贈与税が非課税となります。

    資金を渡す側の親族に年齢制限はありませんが、適用期限は平成33年12月31日までとなりますので注意が必要です。

    贈与

    贈与者祖父母・父母など直系尊属住宅取得等資金受贈者子・孫など

    贈与者祖父母・父母など直系尊属住宅取得等資金受贈者子・孫など

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    ※贈与者祖父母・父母など直系尊属住宅取得等資金受贈者子・孫など

     

    非課税限度額

    契約時期 良質な住宅 一般住宅
    2016年1月〜2020年3月 1200万円
    (3000万円)
    700万円
    (2500万円)
    2020年4月〜2021年3月 1000万円
    (1500万円)
    500万円
    (1000万円)
    2021年4月〜2021年12月 800万円
    (1200万円)
    300万円
    (700万円)

    ※カッコ内の金額は消費税10%適用後の限度額。増税後、非課税限度額が大幅に引き上げられる予定。
    ※「良質な住宅」とは省エネや耐震などの基準を満たした住宅用家屋のこと

    受贈者のおもな要件

    ■贈与者の直系卑属(子・孫など)であること
    ■20歳以上であること
    ■贈与を受けたときに日本国内に住所を有していること
    ■贈与を受けた年の合計所得金額が2000万円以下であること

    残額→課税財産

    非課税制度の適用外となった残額は課税財産として贈与税の対象だが、「暦年課税」か「相続時精算課税」の控除が適用可能

    対象になる住宅のおもな要件

    ■贈与を受けた年の翌年3月15日までに家屋の新築・取得またはその増改築等の対価に充て、住宅を取得し住んでいること(または住むことが確実であること)
    ■登記簿上の床面積が50㎡以上240㎡以下で、かつ床面積の2分の1以上が受贈者の居住用であること
    ■中古住宅の場合は以下のいずれかを満たすこと

    ・25年以内に建築された耐火建築物
    ・耐火建築物以外は20年以内に建築されたもの
    ・一定の耐震基準を満たしていること

    早いほど非課税枠アップ最大3000万円が非課税

    子どもや孫(20歳以上が条件)に対し、住宅を取得するための資金としてお金を贈与した場合、最大で3000万円までが非課税となります。
    延長される可能性もありますが、現行では2021年12月までが期限。契約時期が早いほど非課税の上限も大きいので、住宅取得に関心がある人は早めの決断をしましょう。

    【対策4】相続対策は二次相続まで考慮して準備しよう

    夫、妻ともに財産を所有している場合、夫が亡くなった後にすぐ妻が亡くなる…というような形で相次いで相続が生じる可能性があります(この2回目の相続のことを「二次相続」と呼びます)

    一次相続と二次相続とは

    一次相続

    被相続人が配偶者と子どもを残して亡くなった場合。配偶者に財産の大半を相続すれば、子どもに掛かる相続税の負担は小さくなる。

    二次相続

    すでに配偶者を亡くしている被相続人が子どもを残して亡くなった場合。子どもだけに相続されるため、相続税の負担が大きくなる。

    この場合、この夫婦の子供などの遺族は、1回目と2回目のそれぞれの相続で相続税を負担しなくてはならない可能性がありますから、相続対策は二次相続までを含めたトータルで準備することが大切になります。

    上でも解説させていただいたように、配偶者の人は相続時に配偶者控除という形で大幅に相続税の負担額を小さくすることができますから、1回目の相続で亡くなった方がいくら財産を相続するかを調整することにより、トータルで考えた場合の相続税の負担額は小さくできる可能性があります。

    一次相続と二次相続を二つの分割案で相続税を比較してみよう!

    たとえば夫が3億円の相続財産を残して亡くなり、妻と子供2人が相続する事例で計算してみます。

      《ケース1》

      一次相続

      基礎控除=3,000万円+(600万円×3)=4,800万円
      課税遺産総額=3億円-4,800万円=2億5,200万円
      これをもし法定相続分に従って妻2分の1、子それぞれ4分の1ずつとすると妻の税額は0円(配偶者の税額軽減を利用)、子供は1人1,430万円で2人合計すると2,860万円となります。

      二次相続

      そして、妻には夫から相続した分以外、固有の資産を2億円持っていたものとして二次相続を計算してみます。(妻死亡時の遺産は合計3億5,000万円)
      基礎控除は3,000万円+(600万円×2)=4,200万円
      課税遺産総額=3億5,000万円-4,200万円=3億800万円
      子供が法定相続分の2分の1ずつで相続したとすると相続税の金額はそれぞれに4,460万円ずつ、合計8,920万円となります。

    つまり、2回の相続の合計で支払った金額は1億1,780万円という結論になりました。
    これを「節税」を考えて配分を変えるとどのようになるのでしょうか。

      《ケース2》

      一次相続

      一次相続での取得額を妻に6,000万円、子供たち2人それぞれに1億2,000万円ずつとすると配偶者は0円、子供はそれぞれに2,288万円ずつ、2人合計で4,576万円となります。

      二次相続

      妻の遺産は夫からの相続で取得した6,000万円と固有の財産2億円ですから、合計2億6,000万円が二次相続における相続財産ということになります。
      基礎控除は3,000万円+(600万円×2)=4,200万円
      課税遺産総額=2億6,000万円-4,200万円=2億1,800万円
      子供が法定相続分の2分の1ずつで相続したとすると相続税の金額はそれぞれに2,660万円ずつ、合計5,320万円となります。

      つまり、ケース2の配分だと、2回の相続の合計で支払った金額は9,896万円ということになり、配分を変えただけで1,884万円も節税できたことになります。

    まとめ

    このように、相続税に関してはさまざまな節税対策を行うことができますが、その多くが「財産を所有している人の生前」にしか利用できないものです。

    相続税の対策は少しでも早い時期に行うことで税金の負担を小さくすることができますから、必要に応じて税理士などの専門家のアドバイスを受けるようにしましょう。