この記事でわかること
- 相続税の配偶者控除の概要
- 相続税の配偶者控除の適用要件
- 配偶者控除を受けることによる節税効果
相続税の申告をする際に、「相続税の配偶者控除」の特例の適用を受けることがあります。
相続税の配偶者控除は、非常に相続税の負担軽減に大きな効果があるので、配偶者が亡くなった場合、多くの相続人が適用を受けることとなります。
そこでこの記事では、相続税の配偶者控除の適用を受けるために必要な要件をご紹介していきます。
また、実際にどれくらいの節税効果があるのか、その試算も見ていきましょう。
相続税の配偶者控除とは
相続税の配偶者控除とは、被相続人の遺産をその配偶者が相続した場合に、配偶者に対して適用される相続税上の特例です。
相続税の計算は、実際に相続した遺産の金額に応じて、それぞれの相続人に納付義務が生じます。
そのため、配偶者が多くの遺産を相続した場合には、配偶者が多くの相続税を納付しなければなりません。
しかし、配偶者は被相続人とともに生活し、遺産の獲得に貢献してきた人です。
また、被相続人の遺産で相続後の生活を送ることとなるケースがほとんどであり、配偶者に多額の相続税を課すのは不合理とも考えられます。
そこで、配偶者が相続した遺産に対する相続税は、その後の生活に配慮して大幅に減額されるような措置がとられています。
これが相続税の配偶者控除です。
実際に控除される相続税額は、配偶者の法定相続分に相当する遺産または1億6,000万円のいずれか大きい方に対する相続税の金額です。
そのため、配偶者がすべての遺産を相続しても、相続税が0円というケースもあります。
相続税の配偶者控除を適用するための要件
相続税の配偶者控除は、適用できると減額となる相続税の額が大きいため、いくつかの要件が定められています。
ただ、要件自体は決して難しいものではありません。
相続税の配偶者控除の要件について、あらかじめ確認しておきましょう。
法律上の婚姻関係にあること
相続税の配偶者控除の適用を受けることができるのは、法律上の婚姻関係にある配偶者のみです。
戸籍上の配偶者であれば、婚姻期間の長さや別居しているかどうかは問われず、極端なはなし婚姻届を提出した翌日でも適用を受けられます。
逆に、長期間一緒に生活していて、周りの人も全員が夫婦同然と認めるような関係であっても、法律上の婚姻関係にない場合には、配偶者控除の適用は受けられません。
相続税の申告期限までに遺産分割が完了していること
相続税の申告期限は、被相続人が亡くなった日の翌日から10カ月以内と定められています。
この10カ月の間に誰がどの財産を相続するかを決めて、遺産分割協議書を作成し、その協議書にもとづいて相続税の計算を行ったうえで申告・納付を行わなければなりません。
相続税の配偶者控除の適用を受けるためには、この申告期限内に遺産分割が完了していることが必要です。
ただし、すべての相続において、10カ月以内に遺産分割が完了するとは限りません。
相続人どうしで遺産分割の方法がまとまらずに、申告期限を迎えてしまうケースもあります。
そのような場合には、「申告期限後3年以内の分割見込書」という書類を添付して相続税の申告を行っていきます。
申告期限までに分割されなかった財産について申告期限から3年以内に分割を成立させ、遺産分割が成立した日から4カ月以内に「更正の請求」という手続きをすることで配偶者控除の適用を受けられます。
相続税の申告書を税務署に提出していること
すべての相続人が相続税の申告をしているわけではありません。
基礎控除や借入金などの債務を財産から控除できるため、非課税枠に収まるケースもあります。
相続財産が合計1億6,000万円以下で配偶者がすべての財産を相続した場合は、配偶者控除の適用を受けると相続税は発生しません。
しかしこのような場合は、そもそも財産の額が基礎控除以下であるために相続税が発生しなかったのか、それとも配偶者控除の適用を受けたために相続税が発生しなかったのかわかりません。
そのため、配偶者控除の適用を受ける場合は、相続税の申告書の提出が必要です。
相続税の申告書に添付する書類
配偶者控除の適用を受けるためには、相続税の申告書に添付する書類を準備しましょう。
- 被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本
(被相続人が亡くなってから10日を経過した日より後に発行されたもの) - 遺言書の写しまたは遺産分割協議書の写し
(遺産分割協議書の写しを添付する際は相続人全員の印鑑証明書も必要)
相続税の配偶者控除を適用した場合の相続税の計算例
実際に相続税の配偶者控除を適用するとどれくらいの減額となるのでしょうか。
具体的な金額を用いて、相続税の計算をしてみましょう。
- 相続財産2億4,800万円
- 法定相続人は配偶者と子ども(長男・長女)2人の合計3人
(1)基礎控除の額
3,000万円+600万円×相続人3人=4,800万円
(2)課税対象財産の額
2億4,800万円ー4,800万円=2億円
(3)相続税の総額
2億円を配偶者と子ども2人(長男・長女)が法定相続割合で分割したものとします。
配偶者 | 2億円×1/2=1億円 |
---|---|
子ども一人あたり | 2億円×1/4=5,000万円 |
この財産の額に対する相続人ごとの税額を、速算表を使って計算します。
配偶者 | 1億円×30%ー700万円=2,300万円 |
---|---|
子ども一人あたり | 5,000万円×20%ー200万円=800万円 |
その結果、2,300万円+800万円×2人=3,900万円が、相続人3人で負担すべき相続税の合計額です。
ただし、この時点ではまだ誰がいくらの相続税を支払うかは確定していません。
ここで求めたそれぞれの相続税額も、実際にその人が支払う税額ではないため、誤解しないようにしましょう。
(4)各相続人の納付税額
各相続人の納税額は、課税対象となった財産の額のうちその人が実際に相続した財産の額によって割り振られます。
遺産分割の方法によって、誰がいくらの相続税を納税しなければならないかは変わります。
①法定相続割合のとおりに遺産分割を行った場合
遺産配分 | 納付する相続税額 | |
---|---|---|
配偶者 | 1億円 | 3,900万円×1億円/2億円=1,950万円 →配偶者控除により0円 |
長男 | 5,000万 | 3,900万円×5,000万円/2億円=975万円 |
長女 | 5,000万 | 3,900万円×5,000万円/2億円=975万円 |
このうち、配偶者が納付する相続税額については配偶者控除の対象となります。
今回は、配偶者の相続した財産の額が1億6,000万円以下であるため、配偶者の相続税1,950万円の全額が控除されます。
したがって、3人の相続人が負担すべき相続税の額は、長男975万円、長女975万円の合計1,950万円となります。
②配偶者がすべての相続財産を相続した場合
遺産配分 | 納付する相続税額 | |
---|---|---|
配偶者 | 2億円 | 3,900万円×2億円/2億円=3,900万円 →配偶者控除を適用しても全額は控除できない |
長男 | – | – |
長女 | – | – |
この場合、配偶者の相続分が1億6,000万円を超え、かつ配偶者の法定相続割合を超えて相続しているため全額を控除することはできません。
配偶者控除の上限は、配偶者の法定相続分(今回は1億円)または、1億6,000万円のいずれか高い方の金額をもとに計算します。
今回は1億6,000万円をもとに計算することとなるため、相続税の総額3,900万円×1億6,000万円/2億円=3,120万円まで控除することができます。
その結果、配偶者が納付すべき相続税額は3,900万円ー3,120万円=780万円となり、その額が相続人3人で納付する相続税の合計額となります。
③配偶者が相続財産を8割(1億6,000万円)相続した場合
遺産配分 | 納付する相続税額 | |
---|---|---|
配偶者 | 1億6,000万円 | 3,900万円×1億6,000円/2億円=3,120万円 →配偶者控除により0円 |
長男 | 2,000万円 | 3,900万円×2,000万円/2億円=390万 |
長女 | 2,000万円 | 3,900万円×2,000万円/2億円=390万 |
この場合、配偶者の相続分が1億6,000万円となっているため、配偶者分の相続税額については全額が控除の対象となります。
その結果、配偶者の相続税はかかりません。
また、長男・長女はそれぞれ390万円の相続税を納付する必要があるため、相続人3人で納付する相続税の合計額は780万円となります。
この場合、相続税の合計額は②のケースと一緒ですが、納付する人が異なることとなります。
配偶者控除の計算は、配偶者が法定相続分まで相続するか、1億6,000万円まで相続するか、いずれか大きい方の金額を上限として適用されます。
今回計算した相続財産2億4,800万円、法定相続人が配偶者と子ども2人の3人の場合には、配偶者控除により最大で3,120万円まで控除することが可能です。
相続財産がもっと大きな金額になる場合には、控除可能となる税額も増加し、1億円を超える控除額となることも考えられます。
つまり、
- ①法定相続割合のとおりに遺産分割を行った場合
- ②配偶者がすべてを相続した場合
この両者で最終的に納付する相続税額が異なるように、遺産分割の方法によって控除される税額が大きく変わります。
一般的には、配偶者が相続する財産の額が大きくなるほど、配偶者控除として控除される相続税の額が大きくなり、全員で負担する相続税の額が少なくなります。
ただし、相続税の負担をより少なくすることを考えるうえでは、配偶者が相続した分を子どもが相続する二次相続まで考慮しなければなりません。
そして、二次相続まで含めて考えると、一次相続の際に配偶者が多くの財産を相続して配偶者控除を上限まで適用しない方が有利になることがあるのです。
相続税の配偶者控除は適用すれば必ず得するわけではない
配偶者控除を適用すれば、相続税の額を大幅に減額することができます。
しかし配偶者から子どもへの二次相続まで含めて考えると、上限まで控除を受けることが必ずしも有利になるわけではありません。
ここでは、先ほどの例(相続財産2億4,800万円、法定相続人が配偶者と子ども2人の3人)にもとづいて、一次相続における配偶者控除を上限まで適用した場合と、そうでない場合との比較をしてみます。
一次相続で配偶者控除を上限まで適用し、二次相続で子どもがその財産を相続した場合
一次相続で配偶者が1億6,000万円、長男と長女がそれぞれ2,000万円を相続した場合、一次相続における相続税の合計額は780万円です。
配偶者が亡くなった時に発生する二次相続では、配偶者が一次相続で相続した1億6,000万円(基礎控除考慮後の金額)を2人の子どもが相続することとなるため、この分の相続税を納税しなければなりません。
なお、このときは配偶者控除が適用されないため、課税対象となる財産の額が決まれば2人の相続人が支払う相続税の合計額が変わることはありません。
相続財産1億6,000万円を、2人の子どもが法定相続割合のとおりに分割して相続したものとすると、1人あたりの相続財産の金額は8,000万円です。
1人あたりの相続税額
8,000万円×30%ー700万円=1,700万円
2人の相続税の合計額は1,700万円×2人=3,400万円となります。
したがって、一次相続と二次相続の相続税額の合計は、(一次)780万円+(二次)3,400万円=4,180万円となります。
一次相続で法定相続割合のとおりに相続し、二次相続で子どもがその財産を相続した場合
一次相続で配偶者が1億円、長男と長女がそれぞれ5,000万円を相続した場合、全体の相続税の合計額は1,950万円となります。
配偶者が亡くなった時に発生する二次相続では、配偶者が一次相続で相続した1億円(基礎控除考慮後の金額)を2人の子どもが相続することとなるため、この分の相続税を納税しなければなりません。
なお、二次相続では配偶者控除が適用されないため、課税対象となる財産の額が決まれば2人の相続人が支払う相続税の合計額が変わることはありません。
相続財産1億円を、2人の子どもが法定相続割合のとおりに分割して相続したものとすると、1人あたりの相続財産の金額は5,000万円です。
1人あたりの相続税額
5,000万円×20%ー200万円=800万円
2人の相続税の合計額は800万円×2人=1,600万円となります。
この場合、一次相続と二次相続の相続税額の合計は、(一次)1,950万円+(二次)1,600万円=3,550万円となります。
配偶者控除を適用すれば特になると考えるのは誤り
2つのパターンで一次相続・二次相続の合計税額を比較してみました。
一次相続の時に相続税の配偶者控除を最大限適用して、相続税の負担をできるだけ抑えるのがいいと考えるかもしれません。
しかし配偶者控除を適用すると、それだけ配偶者が相続する財産の額が増え、二次相続における相続税の額は大きくなってしまいます。
課税対象となる財産の額が大きくなればなるほど、相続税の税率が高くなるため、相続人にとっては不利になります。
相続税の納税額を少しでも抑えたいと考えるのであれば、一次相続の時に財産を子どもにも相続させることが必要です。
まとめ
相続税の配偶者控除の制度は、相続財産についての上限額が決められているため、人によっては億単位の減額となることもあります。
遺産分割の方法によって配偶者の相続税額が変わるため、同じ財産の額であっても実際に納付する税額には差が生じるものです。
そのため、何も考えずに配偶者控除を適用してしまうと、一次相続と二次相続をあわせて考えた場合に、実際に支払う相続税の額が何百万円、何千万円もの差が生じる可能性があります。
また、二次相続の際には、配偶者が一次相続で相続した財産に加えて、配偶者自身で保有していた財産にも相続税が課されます。
そのため、配偶者がどれだけの財産を保有しているのかをあらかじめ把握しておくことも重要です。
二次相続の際に後悔することのないように、一次相続の前から様々なシミュレーションをしておくといいでしょう。