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相続税の申告をしなければならないことになったとき、多くの人が、できることなら自分で申告しようと、まずは考えるのではないでしょうか。
たしかに、相続税の申告は税理士に頼まなくても自分で行うことができます。
相続税について何も知らなかったとしても、書籍やインターネットで調べれば、必要な情報は一応、すべて手に入ります。
しかし、相続税の申告を行うためには非常に多くの事項を検討しなければならず、それぞれの検討内容も難解なものが多いです。
必要な検討事項を漏れなく検討できているかをチェックするのも大変です。
さらに、資料の収集などやらないといけない作業の量も膨大です。
そこで多くの人は行き詰まってしまい、税務署か税理士に相談しようと考えることになります。
それでは、相続税の申告を適切に、かつ損しないように行うためには、税務署に相談するのが良いのでしょうか、税理士に相談するのが良いのでしょうか。
結論からいうと、相続税の簡単な相談であれば税務署、節税方法を知りたい人は税理士への相談がおすすめです。
この記事では、相続税の申告について税務署に相談する場合と税理士に相談する場合のそれぞれの利点(メリット)、欠点(デメリット)について解説していきます。
相続税の申告では、下手をすると大きな経済的損失を出してしまう恐れもあります。
適切に相談して、適切に申告するために、ぜひご覧ください。
1. 税務署に相談する場合のメリット・デメリット
相続税のことに限らず、税金のことについては税務署に連絡すれば相談に乗ってもらうことができます。
税務署というと恐い・固いというイメージがあるかもしれませんが、税務署の職員は意外に丁寧な態度で、フレンドリーに相談に乗ってくれます。
相談は匿名でできますので、相続税の申告について相談したからといって目をつけられて厳しく監視されるという心配もありません。
それでは、税務署に相続税の申告を相談した場合のメリット・デメリットをご紹介します。
税務署に相談するメリット
税務署は相続税の申告を代行してくれるわけではありません。
したがって、税務署に相談する場合は、自分で相続税の申告を行うことが前提となります。
税務署に相談するメリットは、以下のようなものがあげられます。
無料で相談できる
相続税の申告について税務署に相談する方法には二つあります。
電話で相談する方法と、職員との面談する方法があり、どちらも無料です。
これから相続税の申告の準備を始めようとする段階では、ほとんどの人がお金の心配で頭がいっぱいになることでしょう。
どれくらいの金額の相続税を納めないといけないことになるのか、資料集めなど申告の準備のためにどのくらいの費用がかかるのか、もし税理士に依頼しなければならなくなったらどの程度の料金がかかるのか、などなど心配は尽きません。
そんななか、無料で相談に乗ってもらえるのはありがたい限りです。
税理士でも無料相談を受け付けている税理士が最近は増えてきましたが、すべての税理士が無料で相談に乗ってくれるわけではありません。
無料相談を受け付けている税理士でも、無料なのは初回の30分か1時間だけで、それ以降は有料になる場合がほとんどです。
30分や1時間など話をしているとあっという間に過ぎてしまいます。
税理士の無料相談だけで相続税の申告に必要な知識を得ようと思うなら、よほどポイントを絞った質問をして、的確な答えをもらわなければなりません。
その点、税務署なら完全無料で相談できるので、この点は大きなメリットと言えるでしょう。
何度でも相談できる
税務署には何度でも相談できます。
何度電話をかけても構いませんし、何度面談してもらっても構いません。
二度目以降の相談は有料になる税理士と違って、税務署での相談は何度でも無料です。
何度でも相談を受けられるわけですから、初歩的な相談から始めて知識をつけていき、次第に本格的な相談に進めていって、最終的に自力で申告するという活用法も可能なのです。
よく、税務署に相談する前にはそれなりの予備知識をつけておくことが必要で、自分が抱えているケースについても事実関係を整理しておかなければならないと言われますが、そんなことはありません。
「相続税って、何ですか?」こんなレベルから相談を始めても構わないのです。
税務署の職員は基本的なことから説明してくれます。
そうやって知識をつけていき、次にはどんなことを調べればいいのか、そのためにはどんな資料を集めればいいのかを教えてもらい、やがて税額の計算方法や申告書の記入方法や提出方法などの最終的なレクチャーを受けて、実際に申告するということが可能なのです。
気軽に相談できる
上のように、初歩的な相談から始めて実際の申告に至るまでには、1回や2回の相談では済みません。
ざっと考えても10回程度の相談は必要でしょうし、それ以上の回数になる可能性も十分にあります。
それだけの回数の相談を無料で受けるのは悪いと思ってしまうかもしれませんが、そんなことはありません。
税務署は、何よりも納税者のみなさんに正確に申告・納税してもらいたいのです。
そのために、このような相談システムを整備しているのです。
一度相談を受けてみるとわかりますが、税務署の職員は意外なほどソフトな態度で、親身に相談に乗ってくれます。
活用できるものは活用すべきでしょう。
税務署に相談するデメリット
是非とも活用したい税務署の相談システムですが、デメリットもあります。
一般的な相談しかできない
税務署で相談できるのは、制度の説明や、どんな資料が必要なのか、申告書の記入方法などの事務手続など、一般的な事項に限られます。
個別具体的な事項について「こうした方が良いですよ」というアドバイスをもらうことはできません。
ましてや、相続人間で遺産分割に争いがあるような場合にどのように対応すればいいのかについて教えてもらうことはできません。
実際、税務署の職員との相談中に話が込み入ってきたら、「税理士に相談してみてはどうでしょうか」と言われることがよくあります。
このセリフが出てきたら、税務署の職員が回答できるのはここまで、という合図なのです。
節税のアドバイスはもらえない
相続税を節税する方法はいろいろありますが、税務署では節税に関するアドバイスは一切してもらうことができません。
それもそのはず、税務署はできるだけ多額の税金を集めたい立場なので、節税のアドバイスをもらえるはずがないのです。
ことさらに税額が高くなるように誘導されるわけでもありませんが、税務署では公平・中立な回答しか得られないと考えておきましょう。
夜間や休日には相談できない
税務署で相談を受け付けているのは、平日の日中のみです。
夜間や、土日・祝日などの閉庁日には相談を受け付けていません。
平日に仕事をしている方にとっては、これは厳しい制限ですね。
税理士に相談する場合なら、夜間や休日にも対応している税理士が増えてきている中、平日の日中にしか相談できないというのは大きなデメリットと言えるでしょう。
税務署に相談するときの注意点
ここからは税務署に相談するときの注意点を紹介します。
対応まで時間がかかる場合もある
税務署は無料で相続の相談ができますが、対応してくれるまでの時間がかかるケースもあります。
なぜなら職員は相続相談以外の仕事もあり、他の業務で忙しい場合もあるからです。
特に毎年1~3月は確定申告の対応をしており、かなり忙しい時期になります。
1~3月は通常よりも相談に時間がかかる可能性が高いため、なるべく時期を外しておきましょう。
窓口で相談するなら事前予約をしておく
税務署で相続相談をするなら、事前予約をしておきましょう。
税務署に電話して、相談内容・日程を伝えることで、確実に対応してくれます。
「なにも分からないからゼロから相談する」のではなく、ある程度自分で調べておいて、分からない箇所をピンポイントで聞いた方が時間もかかりません。
相談前には、必要な資料・書類の準備をしておきましょう。
相談の際に必要になりそうな資料・書類を準備しておけば、相談もスムーズに進みます。
2. 税理士に相談するメリット・デメリット
税務署への相談は無料で気軽だけれど融通が利かないというイメージを持たれたのではないでしょうか。
では、税理士に相談する場合はどうなのでしょうか。
同じようにメリット・デメリットをみていきましょう。
税理士に相談するメリット
税理士に相談すれば、費用はかかるけれど心強くて頼もしいというイメージをお持ちの方が多いかもしれません。
そのイメージは半分正解で、半分間違いです。
詳しくは後でご説明します。
まずは、相続税申告を税理士に相談するメリットをご紹介します。
どんな問題にでも答えてもらえる
税理士に相談すれば、税務に関することならどんな問題にでも答えてもらえます。
相続税の申告に関して、自分の抱えているケースに応じて「こうした方が良いですよ」というアドバイスをもらえるのです。
税務署では、一般的な相談に対して公平・中立な回答をもらえるのみで、あとは自分で考える必要があります。
それに対して税理士の場合は、個別具体的な問題にも踏み込んで、どうすればいいのかを導いてもらえるわけです。
一連の手続を丸ごと代行してもらえる
相続税の申告は、何をすればいいのかがわかっても、しなければいけない作業が膨大にあるのが通常です。
その作業の一つひとつについても、初めてやることが多いでしょうから大変です。
そもそも、税務署や税理士に相談していろいろなことを教えてもらっても、何をすればいいのかを理解すること自体が難しいケースもあるかもしれません。
何もわからなくても、税理士であれば、費用を出せば一連の手続を丸ごと代行してもらうよう依頼することが可能です。
ただし、税理士によって、資料の収集も含めてすべてを代行してくれる税理士もいれば、資料の収集は依頼者本人が行い、税理士は申告手続を代行するだけという場合もあります。
相談する税理士がどこまでを代行してもらえるのかについては、よく確認する必要があります。
また、代行してもらう作業が増えれば増えるほど費用もかさみますので、費用との兼ね合いでどこまで代行してもらうのかを検討することも必要になるでしょう。
節税が期待できる
税理士に相談すれば、節税できるポイントや方法をいろいろ教えてもらうことができます。
この点は、税務署での相談にはない大きなメリットです。
相続税の納税額については、10人の税理士がいれば10通りの計算結果が出ると言われています。
それだけ、相続税の節税方法は多岐にわたり、複雑であるという意味でもありますが、相続税に詳しい税理士に相談することができれば、大きな節税効果が期待できるのです。
税理士に相談するデメリット
相続税の申告を税理士に相談することには大きなメリットもありますが、デメリットもありますから注意が必要です。
費用がかかる
税理士に相談するには、費用を準備しておく必要があります。
初回の30分か1時間だけ無料相談を受け付けている税理士も多くいますが、それ以降は有料となります。
税務相談の相談料は一律に決まっているわけではありませんが、30分で5,000円程度がひとつの目安になります。
相続税の申告手続を依頼する場合は、さらに多くの費用がかかります。
依頼費用についても税理士によって異なりますし、ケースによっても違ってきます。
相場としては、多くの税理士が遺産総額の0.5%~1.0%の間で報酬額を決めています。
遺産総額が5,000万円であれば税理士報酬は25~50万円程度、遺産総額が1億円であれば50~100万円程度ということになります。
それなりにまとまった金額を用意する必要がありますが、それ以上の節税効果を期待できる場合もあります。
税理士に依頼するとどれくらい得になりそうかという点も、相談の際によく確認する必要があります。
争いごとの解決などは依頼できない
相続争いなどの争いごとがある場合は、税理士はその争いごとに関与することはできません。
また、不動産などの名義を変更する登記手続も、税理士が行うことはできません。
これらの問題については、別途、弁護士や司法書士に依頼して解決する必要があります。
税理士事務所によっては、弁護士や司法書士と連携して一括で依頼を受けてくれるところもあるので、そういった事務所を探すのもひとつの方法です。
知り合いの弁護士や司法書士を紹介してくれる税理士もいますが、そのような場合は必ずしも相続に強い弁護士や司法書士を紹介してもらえるわけではないことも多いので注意が必要です。
相続に詳しい税理士は少ない
メリットのところで、税理士に相談すればどんな問題にも答えてもらえると書きましたが、実は、相続に詳しい税理士は少ないのが現実です。
所得税や法人税の確定申告なら件数が多いので大半の税理士は詳しいのですが、相続税の申告というのは、それほど数多くの件数があるわけではありません。
相続税の申告をほとんど扱ったことがないという税理士も多いですし、扱っていても年に1~数件程度という税理士が大半です。
相続税の申告は、プロの税理士であっても難解な面もあり、作業も膨大で大変なものです。
慣れていない税理士に依頼すると、申告ミスによって税務調査を受けたり、追徴税や加算税などを請求されることもあります。
これでは、何のために報酬を支払って税理士に依頼したのかわからなくなってしまいます。
3. 税理士に相談するときの注意点
良い税理士に上手に相談することができればメリットが大きい税務相談ですが、相続に詳しい税理士を探すのが難しかったりもします。
人の紹介などで良い税理士に巡り会うことができればいいですが、なかなか良い税理士が見つからない場合は、インターネットで探すのが便利です。
相続税の申告に詳しいかどうかは、実績を見て判断するのが一番です。
実績を公開している税理士事務所のホームページをいくつか見て、その中から自分に合いそうな事務所を選ぶのが最も確実です。
また、税理士に相談するのはできるだけ早めが良いです。
相続税の申告は、プロの税理士が行っても通常は数ヶ月かかる大変なものです。
相続開始から10ヶ月以内に申告・納税しなければならないというタイムリミットがありますから、遅くとも相続開始から半年までには相談した方が良いでしょう。
なお、たとえタイムリミットに間に合わない場合でも、税理士に相談すればペナルティを軽くする方法を教えてもらえることもあるので、できる限り早く相談するのが良いでしょう。
税務署・税理士のどちらに相談するべきか
「税務署・税理士のどちらに相談した方がいいのか?」と思うかもしれません。
下記では、パターン別におすすめの相談先を紹介します。
簡単な相続相談・相続税がかからない人は税務署
「相続の簡単な相談がしたい・相続税がかからないことが確定している」という人は税務署がおすすめです。
税務署で相続相談すると基本的な相続知識を教えてくれますが、節税方法まで教えてくれません。
また相続税がかかるのは全体の10%程度といわれており、そもそも相続税がかからないケースもあります。
相続税の目安は3,600万円になり、相続財産が3,600万円未満であれば、相続税が発生しません。
自分たちの相続で明らかに相続税が発生しないなら、税務署に相談しても問題ないでしょう。
節税したいなら税理士
「相続税を払わなければいけない」という人は、税理士への相談がおすすめです。
税理士に相談すると、相続税の対策ができます。
相続税は他の税金に比べて税率が高く設定されており、しっかり対策しておかなければ、高い相続税を払うことになるかもしれません。
相続では税金を抑えられるような特別な仕組みがあり、うまく活用すれば節税も期待できます。
相続に精通している税理士に相談すれば、一番節税できる方法を教えてくれるでしょう。
悩んだら税理士への無料相談がおすすめ
「税務署・税理士にどちらに相談していいか分からない」という人は、税理士の無料相談を利用してみましょう。
初回の相談を無料で受け付けている税理士も多く、無料の範囲内であれば費用もかかりません。
無料相談を利用して、自分の相続内容を相談してみて、その答え・見積もり金額などを聞いてから依頼するかどうか判断できます。
無料相談を利用しても「料金が高い」と思えば、その時点でキャンセルすれば問題ありません。
電話などで気軽に利用できるので、まずは無料相談を活用してみましょう。
4. まとめ
相続税の申告を税務署に相談するのも、税理士に相談するのも、どちらにもメリットとデメリットがあります。
どちらに相談するにしても、一番のポイントは早めに相談するということです。
相続税の申告は大変で、ミスしたときのペナルティも大きいからこそ、早めに相談して、余裕を持って準備を進めることが大切です。