暦年贈与のメリットやポイントについて

贈与は、年間110万円までの金額であれば非課税で行うことができます。

このように、1年間に行われた贈与の金額をもとに、贈与税の負担額を計算する方法のことを「暦年贈与」と呼び、相続税対策として用いられることの多い方法です。

この記事では、相続税対策として暦年贈与を活用するメリットやポイントについて解説します。

暦年贈与のメリット:相続税対策に時間をかけられる場合に有効

暦年贈与のメリットとして、年間110万円までの贈与であれば税金をとられることなく親族などに財産を分け与えることができる点が挙げられます。

将来的に相続が発生する時点において残っている財産には相続税が課税されますから、贈与によって生前に財産を身内に分け与えておけば、課される相続税の金額も安く済むというわけですね。

まずは暦年贈与の方法を用いて贈与を行うことが、相続税の節税につながる仕組みを具体例で理解しておきましょう。

暦年贈与を使って相続税対策を行った場合の具体例

例えば、子供が長男、次男、三男と3人いる人が、それぞれの子供に対して年間110万の非課税の範囲内で20年間にわたって贈与を行ったケースを考えましょう。

この場合、110万円×3人×20年間=6600万円だけ相続財産を減らしておくことが可能になります。

「財産を減らしておいた方がお得」というとなんだか変な感じがしますが、税金対策上は、具体的に次のようなメリットがあるのです。

相続税対策をしなかった場合の相続税負担額

相続発生時において6600万円の遺産があったとすると、次のように相続税が220万円だけ発生します。

  • 6600万円-(基礎控除3000万円+600万円×法定相続人3名)=1800万円
  • 1800万円×相続税率15%-控除額50万円=220万円

暦年贈与を長期間かけて利用することによって、この6600万円は非課税で相続財産からなくすことができますので、上で負担しなくてはならなかった相続税220万円は、そのまま得する(支払う必要がなくなる)ことになります。

このように、暦年贈与を使って財産を親族などにあらかじめ分け与えておくことは、相続税対策として有効といえます。

もっとも、非課税となるのは贈与は1人当たり年間110万円までですから、暦年贈与は相続が発生するタイミングまでかなり期間がある場合に有効な相続税対策であることは理解しておく必要があります。

暦年贈与を利用する際のポイント

相続税対策として暦年贈与を利用する際のポイントや注意点について理解しておきましょう。

暦年贈与を利用する際の注意点として、次の2点を知っておくことが大切です。

  • ①親族への贈与を「他人への贈与」と同じように形式を整える
  • ②他の税制度と比較してメリットやデメリットを知る

以下で順番に説明します。

①親族への贈与を「他人への贈与」と同じように形式を整える

暦年贈与を相続税対策として活用する場合には、その贈与が「他人に対して行われたのと同じ形式」を備えておくようにするのが大切です。

理由としては、行われた贈与が実質上は贈与を行う人の銀行口座移動にすぎず、贈与の実態を備えていないと税務署に判断された場合には、税逃れのための手段とみなされてしまう可能性があるためです。

贈与が税逃れとみなされる具体例

例えば、子供に100万円を贈与するという場合に、子供の名義となっている銀行口座に対して振り込みをしたとします。

形式上は贈与といえますが、子供の銀行口座を実質的に管理しているのが贈与者自身であるとみなされると、税逃れの手段として贈与税や相続税の課税対象となってしまう可能性があるのです。

具体的には、形式上贈与を行った後に、親が子供の口座からお金を引き出して生活費に使う…といったようなことが行われる場合には、実質上お金は子供に対して贈与されていないといえますよね。

このようなケースでは、本来は非課税となる贈与に税金が課税されてしまう可能性があるのです。

家族に対して行う贈与が、税逃れの手段とみなされないための対策については後でくわしく解説します。

②他の税制度と比較してメリットやデメリットを知る

上でも少し触れましたが、暦年贈与を相続税対策として行う場合には、相続が発生するまでにまだ時間がないとあまり意味がありません。

相続税対策として行える方法としては、暦年贈与以外にもさまざまなものがありますから、それぞれのメリットやデメリットを理解してどの方法を選択するのか決める必要があります。

例えば、家族に対して居住用の不動産を購入するための資金や、教育資金などの名目で贈与を行う場合には、暦年贈与とは違って非課税で贈与が行える場合があります。

暦年贈与以外の非課税で贈与を行う方法については後でくわしく紹介します。

実際に暦年贈与を利用する際の注意点

贈与を行うことで親族に財産を分け与える際には、贈与税の非課税が否認されないために次のような点に注意が必要です。

①贈与契約書の作成について

贈与は口頭の約束だけでも法律上は有効ですが、後からその事実を税務署に対して証明するために、贈与契約書を作成しておく必要があります。

贈与契約書には当事者として贈与を行う人と、贈与を受ける人の両方が自筆で署名するようにしましょう。

贈与を受ける人が未成年である場合には、その人の親権者が法定代理人として代筆して問題ありません。

なお、贈与契約書に決まった形式はありませんが、次のような事項については明確に定めておくのが望ましいです。

  • 贈与を行う日時
  • 贈与を受ける人の氏名と住所
  • 贈与を行う人の氏名と住所
  • 贈与を受ける人が、贈与を受諾した旨の記載
  • 贈与の対象となる財産を特定するための情報
  • 贈与を行うにあたって条件を設ける場合は、その条件
  • 贈与対象物の引き渡し方法

贈与契約書は必ず2通作成し、贈与者と受贈者の両方が保存するようにします。

なお、贈与する財産が不動産である場合には、収入印紙200円分をそれぞれの契約書に張り付けておきましょう。

②現金ではなく銀行振り込みを利用する

現金を贈与する場合には、現金をそのまま渡すだけでは取引の証拠を残すことができませんから、銀行振込を利用するようにしましょう。

「毎年いくら」というように、相続税対策も含めて継続的に生前贈与を行って行く場合には、できれば贈与の受け取り用の銀行口座を開設しておくのが望ましいです。

その際、口座開設の書類に押印する印鑑は、必ず贈与を受ける人の印鑑を使うようにしてください。

贈与を行う人の印鑑をそのまま銀行届出印にしてしまうと、いわゆる名義預金(贈与の形をつくるためだけの預金)とみなされてしまい、暦年贈与としての贈与税非課税が認められない可能性があります。

定期贈与に注意

また、贈与を行う金額を毎年換えておくことも重要です。

例えば「10年間にわたって毎年100万円を贈与する」という形をとってしまうと、実質的には「1000万円の贈与を受ける権利を設定し、その権利を10年間に分けて行使している」とみられてしまう可能性があります(このようなケースを「定期贈与」と呼びます)

こうなると1年間に110万円までの非課税枠を越えた贈与とみなされ、贈与税が発生してしまう可能性が高くなります。

③贈与振込用の口座の管理方法

贈与を受けるための銀行口座を管理するための通帳やキャッシュカード、銀行届出印は、贈与を受ける本人が保管して管理するようにしましょう。

贈与とは他人に財産を渡して、その人が自由に使える状態にすることですから、もし通帳やキャッシュカードを贈与者が保管しているような場合、名義預金とみなされてしまう可能性が高くなります。

④贈与税の申告を行う

暦年贈与による贈与税の非課税を認めてもらうためには、110万円を超える金額の贈与を受けた年には必ず贈与税の申告を行わなければなりません。

贈与税の申告は、贈与を受けた年の翌年の2月1日~3月15日の時期に税務署に対して行う必要があります。

例えば、2018年7月15日に受けた贈与については、翌年(2019年)の2月1日~3月15日のタイミングで贈与税の申告を行う必要があります。

なお、申告を行う税務署は、贈与を受けた側の人の住所地を管轄している税務署です(贈与を行う人の管轄地ではありません)

暦年贈与と相続時精算課税制度

暦年贈与と比較される贈与の方法として、相続時精算課税制度というものがあります。

暦年贈与が贈与を行った年毎に贈与税の計算を行うのに対して、相続時精算課税制度は、その名の通り「将来的に相続が発生した時にまとめて税金の清算を行う」方法です。

ごく簡単にいうと、贈与を行ったときには贈与税の申告や納税は行う必要がなく、相続が発生するときまで納税を待ってもらえる方法ということになります。

相続時精算課税制度の利用上の注意点

相続時精算課税制度を利用すると、生涯を通して2500万円までの贈与であれば、贈与税の納税は必要なく、相続税が発生するタイミングで相続税を負担すればよいとしてもらえます。

ただし、相続時精算課税制度は「納税を待ってもらえる」というものにすぎませんから、暦年贈与の非課税枠のように「納税を免除してもらえる」という性質のものではないことに注意が必要です。

また、いったん相続時精算課税制度を選択する(税務署に対して「相続時精算課税選択届出書」という書類を提出して手続きします)と、それ以降暦年課税の方式に戻すことができなくなることにも注意を要します。

相続時精算課税制度は基本的に節税の効果はなく、納税を将来に引き延ばす効果しかないことは理解しておいてください。

特例的な税軽減措置が認められる財産贈与の方法

生前に行う贈与について、税軽減効果が認められる特例措置として、次のようなものもあります。

暦年贈与による節税方法と合わせて、これらの選択肢があることも知っておくと良いでしょう。

贈与税の配偶者控除(配偶者への居住用不動産の贈与または購入資金の贈与)

自分の配偶者(妻または夫)に対して贈与を行う際には、贈与税の配偶者控除が認められます。

ただし、贈与税の配偶者控除を利用できる贈与財産は、次のような条件があります。

  • ①法律上の婚姻関係が20年間以上ある配偶者であること
  • ②配偶者が自分で住むための不動産(またはその購入資金)の贈与であること

以下で順番にくわしく説明します。

①法律上の婚姻関係が20年間以上ある配偶者であること

贈与を行う配偶者とは、20年間以上の法律上の婚姻関係が無くてはなりません。

法律上の婚姻関係とは、簡単にいえば市役所に対して婚姻届を出した結婚相手ということです。

いわゆる事実婚の相手に対して贈与を行う際には、配偶者控除は認められないので注意が必要です。

②配偶者が自分で住むための不動産(またはその購入資金)の贈与であること

贈与する不動産や、資金の贈与を受けて購入する不動産は、実際に贈与を受ける人が住むためのものでなくてはなりません。

より具体的に言うと、贈与を受けた年の3月15日までに居住を始め、それ以降も住み続ける見込みであることが必要です。

配偶者が自分で居住することを目的としない投資不動産の贈与などは、配偶者控除の対象にはなりません。

教育資金の一括贈与

30歳未満の子供や孫に対して教育資金の名目で贈与を行う場合には、1500万円までであれば非課税で渡すことが可能です。

教育資金とはいっても非常に幅広く使途が認められますから、小中高大学の教育費以外にも、留学費用や習い事の費用としてお金を渡した場合にも適用を受けることができます。

ただし、常識的な範囲内で生活費や教育費用を子供や孫に渡すことは、そもそも贈与税の対象とはならないことには注意を要します(この場合、暦年贈与にも該当しませんから、110万円までという制限もありません)

教育資金の一括贈与を使うことがメリットになる具体的なケース

なので、この特例を使うことがメリットになるケースは限られているといえますが、上の通常の教育資金の贈与が「お金が必要になるたび、その都度渡す必要がある」という条件があるのに対して、教育資金の一括贈与では、その名の通り「一括でお金を渡す」ということが可能になる点です。

具体的にいえば、大学に入学する子や孫に対して、1年ごとに支払う授業料を負担してあげたような場合には通常の贈与として非課税ですが、中高大学の授業料をまとめて渡すなどの場合には一括贈与を行うシーンが考えられるでしょう。

いずれにしても、その都度払うようにすればそもそも贈与税は発生しないわけですから、この特例が利用されるのは相続税対策としての意味合いが強いといえます。

例えば、近い将来に相続の発生が見込まれるような場合(つまり財産を所有している方の死亡が近い場合)に、暦年贈与の形で贈与を地道にやっていく時間的な余裕がないので、一括贈与としてまとめて財産を分けあたえて相続税の負担額を小さくするなどの形が考えられます。

結婚や子育て資金の一括贈与

上では教育資金の一括贈与についてみましたが、結婚や子育てのための資金を一括で渡す場合にも、特例的に贈与税の非課税制度があります。

具体的には、結婚式を挙げるとか、新居に引っ越すための費用(家具家電の購入費用は含まないので注意)を負担したような場合には300万円までの一括贈与が非課税となります。

また、これらに加えて出産や子育てに関する名目でお金を渡す場合には、1000万円までの一括贈与を非課税としてもらうことが可能です。

ただし、こちらも「一括して贈与する」場合にのみメリットのある方法で、「必要になる都度渡す」場合であればそもそも贈与税は非課税になることには注意が必要です。

まとめ

今回は、暦年贈与を行うメリットや注意点について解説しました。

本文でも見たように、暦年贈与による贈与税の非課税枠を利用するメリットは、将来的に発生する相続税の負担額を抑えることにあります。

生前贈与に関しては暦年贈与以外にもさまざまな節税方法が用意されていますから、税理士などの専門家と談しながら利用を検討してみると良いでしょう。