相続が開始した場合、相続税が課されるか否か、課されるとしてもその額がいくらとなるかは、相続財産の評価額がいくらとなるかによって決まってきます。
相続財産の評価額が基礎控除額以下であればそもそも相続税は課されませんし、実際に相続税を計算する際にも相続財産の評価額によって税率屋控除額も変わってきます。
相続財産の評価額の算定で難しいものの一つとして、非上場の株式があります。
上場株式の場合には取引相場がありますので、それが基準となります。
しかし、非上場株式の場合には客観的な基準がないため、どのように評価するかが問題となります。
そこで、本稿では、その様な非上場株式の評価方法について見ていきます。
非上場株式の評価方法の種類
非上場株式の評価方法は複数あり、その株式の発行会社がどのような会社かによって、どの評価方法を採用するかが変わってきます。
そこで、最初に、その評価方法の種類と、それぞれがどのような方法で評価するのかについて見ていきましょう。
原則的評価方式
類似業種比準方式
発行会社の事業内容と類似する業種目に属する上場会社の株価を参考にして、当該非上場の発行会社の株価を算定する方法です。
具体的には、当該参考となる上場会社の株価に、1株あたりの配当金額、1株あたりの年利益金額、1株あたりの簿価純資産額の批准割合を乗じた上で、調整額を乗じて、当該発行会社の株価を算定することになります。
具体的な計算式は以下の通りです。
ところで、最後の「0.7」が調整額で、「0.7」は大会社の場合です。
中会社の場合はこの数値が「0.6」に、小会社の場合にはこの数値が「0.5」となります。
なお、上記の計算式は平成29年の税制改正後、すなわち、平成29年1月1日以降のもので、それ以前は下記のような計算式で算定されていました。
見て分かるとおり、従来は利益の額が重視されていました。
しかし、平成29年の税制改正によって、計算方法が変わりましたので、注意が必要です。
純資産価額方式
純資産価額方式とは、発行会社の課税時期時点においてその会社を清算すると仮定した場合の1株あたりいくらの分配を受けることが出来るかという観点から、株価を評価する方法です。
具体的には、課税時期における資産から負債および評価差額に対する法人税額等相当額を控除して算出された額を、発行済み株式数で除して算出することになります。
ところで、純資産価額方式で株価を算出する場合に注意しなければならないことは、純資産の額とは貸借対照表上の純資産額とは一致しないということです。
貸借対照表上の数字はすべて取得時の価額が記載されているため、現時点でのその実際の資産等の評価額を示していないためです。
そこで、純資産価額方式で株価を算定するには、まず、実際の現時点における純資産額を算出する必要があります。
つまり、以下の算式で計算することになります。
※上記は法人税率を37%として計算しています。
併用方式
併用方式とは、類似業種比準方式と純資産価額方式とを一定の割合で折衷する方式をいいます。
併用方式における類似業種比準方式と純資産価額方式との適用割合については、その会社の規模に応じて、90:10、75:25、60:40、50:50の4段階に分けられています。
その場合の計算式は、以下の通りとなします。
例外的評価方式
配当還元方式
原則的評価方式は、オーナー企業の経営者の相続人など、その経営に関わる人に相続が生じた場合を想定しています。
これに対して、少数の株式しか保有しておらず、会社経営には関与しておらず、専ら配当のみに関心があるという株主については、これらの原則的評価方法とは別に、その配当を基準として簡易に評価する方法として配当還元方式という評価方式が認められています。
その場合の計算式は以下の通りとなります。
※配当が無配の場合には、以下のように計算します。
同族会社への評価方法の適用
上記の通り、非上場株式の評価方式には複数の方式があります。
そこで、具体的に非上場の株式を評価する際に、具体的にどの方式を採用したらいいかということが問題になります。
まず、前提として、非上場株式の発行会社の場合、その多くは同族株主がいる、いわゆる同族会社の場合が多いと思われます。
そこで、ここでは、まず、その様な会社について見ていきます。
株主の区分
同族会社の場合、まず、今回相続が開始された被相続人が、その同族株主なのか、それ以外の少数株主かなのかを確認する必要があります。
①主が少数株主の場合
この場合には、当該株主は経営には基本的にかかわらず、配当の身に関心がある状態と考えられます、その結果、係る株主については、通常、特殊的評価方法である配当還元方式によって評価額を算定することになります。
但し、その発行会社の規模に応じて原則的評価方法である類似業種比準方式、または、純資産価額方式もしくは併用方式で算定した評価額の方が配当還元方式による評価額よりも低い場合には、その原則的評価方式による評価額を採用することも可能とされています。
②被相続人が同属会社の同族株主であった場合
この場合には、原則的評価方式で評価することになります。
同族株主の場合の評価
被相続人が同族株主であった場合には、次の段階として、当該会社の状態がどのような状態にあるかを検討します。
①その会社が開業前または休業中、開業後3年未満の会社、批准要素数0の会社、批准要素数1の会社、土地保有特定会社、株式保有特定会社の場合には、特定の評価会社として、純資産価額方式によって評価することとなります。
※「批准要素数」とは、類似業種批准方式における3つの批准要素のことをいい、これが3つともゼロの会社を「批准要素数0の会社」、批准要素3つのうち2つがゼロで1要素のみ該当がある会社を「批准要素数1の会社」といいます。
※「土地保有特定会社」とは、総資産中に占める土地などの割合が、大会社と一部小会社では70%以上、中会社と一部の小会社では90%以上の会社をいいます。
※「株式保有特定会社」とは、総資産中に占める株式などの割合が大会社の場合は25%以上、中小会社の場合は50%以上の会社をいいます。
②清算中の会社については、精算によって分配を受ける見込額によってその株式を評価することになります。
具体的には、精算の結果、分配を受ける見込の金額の課税時期から、分配を受けると見込まれる日までの期間に応ずる基準年利率による複利現価の額によって、評価することになります。
③上記以外の会社については一般の評価会社として、会社規模に応じて評価方式が決定されることになります。
一般の評価会社の場合の評価
一般の評価会社の場合には、その会社の規模を「大会社」「中会社」「小会社」に区分し、それに応じて評価方式が決定されます。
ここにいう大会社、中会社、小会社の区分は以下の基準によります。
会社区分 | 基準 |
---|---|
大会社 | 従業員数が100人以上 または、 総資産価額が卸売業の場合は20億円、それ以外の場合は10億円以上で従業員が51名以上、 もしくは 直近1年間の取引金額が卸売業の場合は80億円、その他の場合は20億円以上 |
中会社の大 | 総資産価額が卸売業の場合は14億円、その他の場合は7億円以上で従業員数が51名以上 または、 直近1年間の取引金額が卸売業の場合は50億円以上、小売業・サービス業の場合は12億円以上、その他の場合は14億円以上 |
中会社の中 | 総資産価額が卸売業の場合は7億円、その他の場合は4億円以上で従業員数が31名以上 または、 直近1年間の取引金額が卸売業の場合は25億円以上、小売業・サービス業の場合は6億円以上、その他の場合は7億円以上 |
中会社の小 | 総資産価額が卸売業の場合は7000万円、小売業・サービス業の場合は4000万円、その他の場合は5000万円以上で従業員数が6名以上 または、 直近1年間の取引金額が卸売業の場合は2億円以上、小売業・サービス業の場合は6000万円以上、その他の場合は8000万円以上 |
小会社 | 上記に該当しない会社 |
①会社
原則として類似業種比準方式によって算定します。
但し、選択によって純資産価額方式を採用することも認められています。
②会社
原則として併用方式によることとされています。
この場合、中会社については「中会社の大」「中会社の中」「中会社の小」の区分によって、併用方式における類似業種比準方式と純資産価額方式の採用割合が決められています。
- ・中会社の大:類似業種比準方式=90%、純資産価額方式=10%
- ・中会社の中:類似業種比準方式=75%、純資産価額方式=25%
- ・中会社の小:類似業種比準方式=60%、純資産価額方式=40%
但し、中会社については、純資産価額方式を採用することも認められています。
③会社
原則として純資産価額方式とされています。
但し、併用式を採用することも認められています。
小会社が併用方式を採用する場合の類似業種標準方式と純資産価額方式の採用割合は、50%ずつとされています。
同族株主のいない会社への評価方法の適用
同族株主がいない場合には、株式の持ち株割合が15%以上のグループに属するか否かによってその評価方法が変わってきます。
持株割合15%未満のグループに属する株主
この株主については、基本的に経営に関与しない者として、配当還元方式によって評価額が算定されることになります。
持ち株割合が15%以上のグループに属しているが、相続後の持ち株割合が5%未満の株主で当該会社の役員になっていない株主
この株主についても、経営への関与度合いは低いため、配当還元方式によって評価額算定されることになります。
持ち株割合が15%以上のグループに属し、持ち株割合が5%以上の株主、および、持ち株割合は5%未満だが役員に就任している株主
これらの株主については、原則的評価方法が適用され、上記2.の特定の評価会社に係る評価方式(上記2.(2))、および、一般の評価会社に係る評価方式(上記2.(3))が適用!されることになります、
自社に適切な方法で評価しよう
非上場株式を評価する方法は、大きく4種類あります。
「どの方法で評価すればいいのか分からない」と思うかもしれません。
評価の方法は、同族会社なのか・会社の規模はどれくらいなのか?によって異なります。
自社の適切ではない方法を選んでしまうと、評価で損をするかもしれません。
たとえば類似業種比準方式は、純資産価額方式に比べて、評価額が安くなることが多いです。
類似業種比準方式が使えるのに、間違って純資産価額方式を使ってしまうと、評価額も高くなり結果的に相続税も増えてしまいます。
自社に合った方法で、株式の評価額を算出するようにしましょう。
株式の評価で不安な人は税理士に相談しよう
非上場株式の評価は、複雑で難しいものです。
専門的な知識がない状態だと、間違った方法で評価額を算出してしまうかもしれません。
そこで非上場株式の評価が不安な人は、税理士への相談がおすすめです。
税理士は初回の相談を無料で受け付けていることが多く、まずは無料の初回相談から利用してみましょう。
下記では、税理士に依頼するメリットを紹介します。
適切な株式評価額を出してくれる
税理士に依頼すれば、自社に合った方法で、適切な評価額を算出できます。
自分たちだけで進めてしまうと、間違った評価額を算出してしまったり、相場よりも高い評価額になって損をするかもしれません。
相続の経験が豊富な税理士であれば、株式の評価も任せられます。
相続全体の相談ができる
相続に強い税理士なら、非上場株式の評価だけでなく、相続全体の相談ができます。
相続税は他の税金に比べて高く設定されているため、対策をしておかなければ、高い税金を払うことになります。
税理士に相談することで、控除金額が増える特例を教えてもらったりと、相続税を抑えるような方法を教えてくれるでしょう。
非上場株式の評価だけではなく、相続税の計算・控除枠の活用も複雑で難しくなっています。
知識のない状態で悩んで間違ってしまうよりも、プロである税理士に依頼した方がいいでしょう。
スムーズに手続きを進めるうえで、税理士のサポートは欠かせないでしょう。
手続きのアドバイスをもらえる
相続では、手続きの期限が決まっています。
相続が発生したことを知った日の翌日から、10ヶ月が期限になります。
10ヶ月以内に相続財産・相続税の計算をしたうえで、必要書類を準備して税務署へ申告しなければいけません。
税理士に依頼すれば、手続きのアドバイスをもらったり、分からないポイントはすぐに相談できます。
スムーズに手続きを進めるうえで、税理士のサポートは欠かせないでしょう。
まとめ
以上、非上場株式について、評価方法を確認すると共に、具体的にどのような株主についてどの評価方法が適用されるのかについて見てきました。
これまで見てきたとおり、非上場会社については、会社の規模や、他の株主との関係等も含めて考慮する必要があります。
これらを間違えると、本来よりも高く評価してしまい、余計な税金を納めることとなり、逆に、相続税を過少に申告してしまい、後日修正申告をしなければならないといった事態にもなりかねません。
分からないことがあったら、専門家に相談するといったことも含めて、適切に対応するようにしてください。