この記事でわかること
- 令和3年度税制改正大綱の相続に関する改正点がわかる
- 令和3年度税制改正大綱の暮らしに関する改正点がわかる
- 令和3年度税制改正大綱の新型コロナで影響があった方への主な改正点がわかる
令和3年度税制改正大綱が、12月に発表されました。
新型コロナの影響を受けている人が多い中、どのような改正があり、私たちの生活にどのような影響がある
のか?
この記事では、今回の税制改正による相続や暮らしに関する改正点について説明していきます。
具体的な改正点を知り、「知らなかったせいで損をした!」とならないように確認していきましょう。
相続に関する改正点
今回の税制改正では、相続に関して「大きな改正があるのでは」と推測されていましたが、目立った動きはありませんでした。
それでも、相続に関連の深い生前贈与等に改正があったので、順に見ていきましょう。
住宅取得等資金にかかわる贈与税の非課税措置
住宅を新築する際に、父母や祖父母などから資金援助を受けた場合、一定の条件を満たすと一定の額まで贈与税が非課税となります。
この金額が、今回の改正により、令和3年4月1日から12月31日の契約について、非課税限度額を令和3年3月31日までの非課税限度額と同額まで引き上げられます。
- ・一般住宅:700万円⇒1,000万円
- ・省エネ・バリアフリー住宅:1,200万円⇒1,500万円
適用を受けるためには、住宅の床面積が50~240㎡といった条件がありますが、贈与を受け取ったその年の所得金額が1,000万円以下である人は、床面積が40㎡から適用することができます。
教育資金贈与/結婚資金贈与
教育資金贈与/結婚資金贈与について見ていきます。
教育資金贈与
教育資金贈与とは、父母や祖父母から30歳までの子や孫へ信託によって「教育資金」を贈与することです。
受贈者1人につき、1,500万円まで非課税となります。
流れとしては、金融機関と管理契約を結びます。
そして教育資金を預け、教育資金を申請し、引き出して一定の期間内に教育費にあてていきます。
この期間中に贈与者である父母や祖父母が死亡した場合、使用しなかった残額に対して、相続をしたとみなして相続税がかかることがあります。
この相続税に関して二点改正がありました。
一つ目は、この相続税の課税は、贈与から3年以内に死亡したときに対象とされていましたが、死亡の日までの年数に関わらず、使用しなかった残額を相続税の対象とすることとなりました。
二つ目は、死亡した人の子以外に相続税が課されるときは、相続税額の2割加算の対象とすることとなりました。
結婚資金贈与
結婚資金贈与とは、結婚・子育てに関する贈与は、父母や祖父母が子どもや孫に、結婚・子育てのための資金を金融機関に信託等をしたときに1,000万円までは贈与が非課税となる制度です。
この場合にも、管理契約期間中に贈与者が死亡した場合には、残額に対して相続をしたとみなし、相続税がかかります。
この結婚資金贈与についても、教育資金贈与と同じく、死亡した人の子以外に相続税が課されるときは、相続税額の2割加算の対象とすることとなりました。
また、受贈者の年齢は20歳以上50歳未満に限られていましたが、18歳以上となりました。
外国人に係る相続税等の納税義務について
今までの税制では、短期的に日本に滞在する外国人が日本で死亡したとき、国内財産と国外財産の両方を相続税の課税対象とすることになっていました。
それが今回の改正により、優秀な外国人労働者が日本で働きやすくなる環境を作るため、就労のために日本に居住する外国人労働者の相続については、居住する期間によらず、日本に一時的に滞在する外国人や日本国外に居住する外国人が、相続人として取得する国外財産を相続税の対象としないこととなりました。
暮らしに関する改正点
今回の税制改正では、景気下支えのために、家計や民間企業の負担緩和を図る観点での改正が多く見られました。
それでは、順に確認していきましょう。
住宅ローン控除
住宅ローン控除は、10年間の適用が原則となっていましたが、消費税率10%への引き上げによる需要の減少の対策として、控除期間を13年間とする特例がありました。
この特例の適用が、契約日や入居日の条件を満たすときに延長することとなりました。
新築のとき、令和2年10月~令和3年9月末まで
増改築・建売のとき、令和2年12月~令和3年11月末まで
入居:
令和4年12月31日まで
また、延長した部分に限り、合計所得金額が1,000万円以下の人は、床面積が40~50㎡までの住宅も対象となります。
エコカー減税
エコカー減税とは、燃費性能に応じて、車検の時にかかる自動車重量税を優遇する制度です。
2021年4月に制度の期限を迎える予定でした。
しかし、今回の改正によって2年間延長することになり、新車の約7割が減免の対象となる現状を続けることとなりました。
2021年度からは2030年度に向けて、現行より厳しい燃費基準に切り替え、新基準を60%以上達成する車種が減税の対象となります。
固定資産税
固定資産税の評価額は3年ごとに評価替えを行いますが、次回の評価替えが令和3年に行われます。
土地の評価基準としている公示価格は、令和2年1月1日時点での価格となりますが、この公示価格が近年上昇傾向にあり、この公示価格で算定すると固定資産税も増加することになってしまいます。
そのため、新型コロナの影響を考慮し、一定の宅地及び農地においては、令和2年度と同額とすることとなりました。
NISAの拡充
NISAは、毎年一定金額の範囲内で購入した金融商品による利益が非課税となる制度です。
このNISAを利用する際、様々な書類の提出をすることになり、中には住所等確認書類の提示や特定署名用電子証明書等を送信する必要がありました。
そこで今回の改正により、利便性の向上という観点から、一定の書類に関しては住所等確認書類の提示や特定署名用電子証明書等の送信が不要となりました。
セルフメディケーション
セルフメディケーションとは、健康の維持増進及び疾病の予防への取組として一定の取組を行う個人が、スイッチOTC医薬品(要指導医薬品及び一般用医薬品のうち、医療用から転用された医薬品)を購入したときに、費用について所得控除を受けることができる制度のことです。
今回の改正により、対象をより効果的なものに重点化し、5年の延長を行うこととなりました。
具体的には、効果の薄いスイッチOTC成分は対象外とし、効果があると考えられる薬効(3薬効程度)については、スイッチOTC成分以外の成分にも対象を拡充し、具体的な内容等については専門的な知見も活用し決定していきます。
新型コロナで影響があった方への主な改正点
新型コロナの影響などもあり、家計の暮らしと民間の需要を下支えするための減税や手続きの簡便化が多く見られました。
少し細かい点もありますが、順に見ていきましょう。
固定資産税
新型コロナ感染拡大により、厳しい経営環境に直面している中小事業者等や家計の負担が増えないように、本来行われる評価替えをせず、令和3年度も同額とすることとなりました。
ただ、家計への負担軽減という意味では、影響は小さなものとなるかもしれません。
実際に減額される金額が数百円という方も少なくない見通しです。
欠損金繰越控除の特例
新型コロナの影響により赤字の企業でも、積極的な投資が出来るよう、繰越欠損金控除の措置が拡大されることとなりました。
大企業は従前では控除できる欠損金の上限が当年度所得金額の50%までしか認められていませんでした。
しかし、改正後は100%控除 へと大幅に引き上げられ、最長で5年間適用されることになりました。
ただし、納税回避の方法として利用されないよう、具体的な投資計画を策定し、国の認定を受けた企業だけが対象となります。
航空機燃料税の減税
新型コロナの影響により、航空会社の経営は非常に厳しくなっており、機体をさらに削減することになると、地域の経済活動の根幹である航空網の維持が困難になる可能性があるとして、支援を強化することになりました。
具体的には、下記のとおりです。
- ・航空機燃料税の税率の特例措置について、令和3年4月1日から令和4年3月31日までの間の税率を1㎘につき9,000円(現行:18,000円)とする。
- ・沖縄路線航空機に積み込まれる航空機燃料に係る航空機燃料税の税率の特例措置について、令和3年4月1日から令和4年3月31日までの間の税率を1㎘につき4,500円(現行:9,000円)とする。
- ・特定離島路線航空機に積み込まれる航空機燃料に係る航空機燃料税の税率の特例措置について、令和3年4月1日から令和4年3月31日までの間の税率を1㎘につき6,750円(現行:13,500円)とする。
ただし、この措置は令和3年度に限ったものであり、新型コロナ感染拡大防止策である海外への渡航制限などで大きな影響を受けた航空会社の支援を目的としています。
菅政権の看板政策に関する主な改正点
菅政権では新型コロナ下において、経済構造の転換・好循環の実現を図るために、DXやカーボンニュートラルが推進されており、実現のための特例や措置がとられました。
DX(デジタル・トランスフォーメーション)
DXとは、進化し続けるデジタル技術が、人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させ、生活を豊かにしていくことです。
今回の改正により、企業によるDXの促進のため、自社で使用するソフトウェアの試験、研究にかかった費用が減税対象となります。
また、国や地方自治体の税務手続きの負担軽減のため、実印や印鑑証明書の添付が必要な場合を除き、納税者の関係書類への押印の義務も廃止となりました。
カーボンニュートラル
政府が掲げた2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロにする 「2050年カーボンニュートラル」という目標に向けて、設備投資をする場合に税負担を軽減することになりました。
適用を受けるためには、産業競争力強化法の「中長期環境適応計画(仮称)」の認定を受けることが必要です。
そして、計画の通り導入する設備について特別償却か、税額控除のいずれかを選択することができます。
まとめ
今年は新型コロナの影響もあり、減税方向の改正が多くなりました。
また、今回の税制改正で「相続税について大きな改正があるのでは」と推測されていましたが、結果を見ると大きな変更はありませんでした。
それでも、相続に関連の深い贈与税等にいくつか改正が見られました。
相続を控えている人にとっては、影響のある人も多い内容となっていますので注意が必要です。
新型コロナの感染拡大が続く中、生活環境・様式も大きく変化し、家計も厳しくなっている人は多いかもしれません。
今回の税制改正をうまく利用し、この厳しい環境の中、少しでも暮らしの負担を軽減できるよう役立てましょう。