親族が亡くなると相続が開始します。
相続手続きの主なものとして不動産や預貯金、株などの名義変更などがありますが、それらを一通り済ませ、どの相続人がどの財産を相続するかが決まると、次に相続税支払いの有無が問題になってきます。
相続税は各相続人の事情によりいくつかの控除が設定されています。
このうち一般的によく使用される基礎控除と配偶者控除について説明します。
基礎控除額の計算方法について
まず、基礎控除は相続人であれば誰であっても一律に適用されるものです。
全ての相続財産が「3000万円+600万円×法定相続人の数」を超えなければそもそも相続税を払う必要がありません。
例えば亡くなった方(被相続人)の法定相続人が配偶者と子供2人であれば、
が基礎控除額となり、相続財産が上記の額以内であれば税金の心配は不要ということです。
ちなみに法定相続人の中で相続放棄をする人がいても、基礎控除額の計算上は法定相続人としてカウントされますので、相続放棄によって控除額が減少するということはありません。
この基礎控除があることにより、相続税の課税対象者となるケースはかなり少なくなります。
2017年度に課税対象者となったのは、全相続人の8.3%でした。(公益財団生命保険文化センター調べ)
基礎控除額を超えた財産がある場合
全相続財産が基礎控除額を超える場合、超えた額に対して相続税が課せられます。
例えば全相続財産が1億円で、上記と同じ法定相続人が3名であれば、
となり、5200万円に対して相続税がかかってくることになります。
これを各相続人の法定相続に当てはめると、
子供… 法定相続分各4分の1ずつで、超過分のうちそれぞれ1300万円を相続
となります。
実際の相続税額ですが、本件の場合相続人全員の課税対象額が1000万円を超え、3000万円以下ですので税率が15%となります。
その上でそれぞれ50万円ずつの控除がされますので
子供… 1300万円×15%―50万円=各145万円
合計 630万円
が相続税額となります。
さらに各相続者が法定相続分通りの相続をした場合、最終的に各相続人が支払う額を計算します。
計算方法は「相続税総額×各人の課税価格÷課税価格総額」です。
配偶者…630万円×5000万円÷1億円=315万円
子供…630万円×2500万円÷1億円=各157.5万円
がそれぞれの相続人の相続税額となるのです。
配偶者控除を利用すると
このように、基礎控除のみで計算して納税をしても構わないのですが、ここに配偶者控除制度(正しくは配偶者の税額軽減)を取り入れると、納税額をさらに減らすことができます。
配偶者控除制度は、被相続人の財産形成に配偶者が寄与していることから配偶者の今後の生活安定を図るというのが主な目的です。
配偶者制度を利用すると、
- ①配偶者が法定相続分を相続する場合
- ②法定相続分を超えた割合で相続したとしても、その額が1億6000万円以内
のいずれか多い額で相続税が免除されるのです。
たとえば法定相続分が2億円であればその全額に対して相続税がかからないということです。
先ほどの例で考えると、配偶者は法定相続分の相続をしていますから、基礎控除のみだと納めなければならない315万円を、配偶者控除を利用することでゼロに出来ます。
さらに、もし配偶者が被相続人の全財産を相続すると分割協議などで決めた場合、財産総額は1億6000万円以内ですから、本来納めるべき630万円の相続税がすべてゼロになります。
配偶者控除は使用方法に注意
一見良いことだらけの配偶者控除制度ですが、使用には注意が必要です。
というのも、夫婦間の年齢差が近い場合、比較的近い時期に再び相続が起こる可能性があるからです。
今回の相続で税額がゼロになるからとすべての財産を配偶者が相続するようにしても、その数年後に配偶者が亡くなって子供だけの相続(二次相続)になったら、今度次は原則基礎控除の適用しかありません。
相続税が重くのしかかることになります。
各相続人の事情を考慮しつつ、全員の負担が公平になるような相続割合を考え、無理のない範囲で配偶者控除を使用するよう話し合いましょう。
相続税ゼロでも申告が必要
相続税の申告は、相続財産総額が基礎控除額を超えていれば、相続開始から10か月以内にする必要があります。
言い換えると、基礎控除額を超えていれば、たとえ配偶者控除を利用して最終的に相続財産がゼロになっても申告をしなければなりません。
配偶者控除を使う旨を申告しておかないと税務署としてはただの申告漏れなのか配偶者控除なのかの判断ができないからです。
おわりに
基礎控除と配偶者控除を使えば、たいていのケースで相続税をゼロにすることが可能ですが、残された配偶者の安定した生活と二次相続の負担のバランスをよく考えて相続税対策を取るようにしましょう。