この記事でわかること
- 相続税の計算方法
- いろいろな税金を軽減できる制度
- 相続税の申告方法
- 相続税に関する注意点
相続人達が被相続人の遺産を遺言や遺産分割協議に従い取得した場合、それぞれに相続税がかかります。
ただし、財産分与が行われたからと言って、いきなり相続税のような税金がかかるというわけではありません。
被相続人の遺産総額等は被相続人の負債や、その葬儀費用、控除制度といろいろ差し引けるものがあります。
今回は、相続税の計算方法や様々な控除制度、相続税の申告方法について解説します。
遺産がもらえる分、税金はかかる
被相続人が亡くなれば、その所有していた土地・家屋の不動産資産、預貯金・債券等の金融資産は法定相続人に分与されます。
相続人の方々は遺産を取得することができるものの、それに見合った「相続税」はやはり課されることとなります。
しかし、プラスの遺産を継いだからと言って、いっきに多額の相続税がかかるわけではありません。
まずはプラスの遺産から、被相続人の負債や葬儀費用等、そして相続税を軽減する控除制度を利用して差し引いていきます。
ただし、条件によって相続税の軽減措置が誰でも利用できると言えないケースはあります。
また、意外な物が課税対象となる場合もあります。
相続税の計算方法について
相続税の計算で気を付けるべき点として、被相続人の遺した不動産資産・金融資産だけを遺産とするだけではないことがあげられます。
まずは相続税の計算方法をみてみましょう。
参考:国税庁ホームページ 「相続税の計算 」
-(3)非課税財産価額+(4)相続時精算課税に係る贈与財産価額
-(5)債務・葬式費用=(6)純資産価額
=各人の課税価額(千円未満切捨て)
(1)相続または遺贈で取得した財産価額
前述した相続財産や、遺贈(遺言で取得した財産)の価額です。
(2)みなし相続等で取得した財産価額
民法では相続財産には含まれないものの、相続税法上で相続財産とされる金銭等を指します。
具体的には受取人(遺族)が受け取る死亡保険金、死亡退職金等が該当します。
(3)非課税財産価額
こちらには死亡保険金・死亡退職金の非課税枠が該当します(詳細は後述)。
また、故人のための墓所・仏壇・祭具、国・自治体、特定の公益法人へ寄附した財産も含まれます。
(4)相続時精算課税に係る贈与財産価額
相続時精算課税制度とは、親・祖父母がその子・孫に対して生前贈与した場合、2,500万円分の贈与まで税金がかからない制度です。
この制度を利用し贈与していた人が死亡した場合、受贈者(贈与を受け取る側)が相続や遺贈で財産を取得しない場合でも、相続や遺贈で取得したとみなされます。
よって、贈与時の価額で相続税の課税価格へ算入されることになります。
(5)債務・葬式費用
こちらには被相続人の借金、未払いの税金、葬式を行った際の費用が該当します。
(6)純資産価額
(1)~(5)の価額を計算した金額です。
ただし、これが0円であるからと言ってまだ安心はできません。
(7)相続開始前3年以内の贈与財産価額
被相続人から相続開始前3年以内に贈与された財産があるとき、その財産も加算されます。
贈与税の非課税財産(例:法人からの贈与で取得した財産等)に該当しないと、贈与税が課されていたかどうかに関係なく加算されます。
つまり贈与税の基礎控除額110万円以下の贈与分も加算されることになります。
相続税の税率はどの位
気になる相続税の税率は次の通りです(2015年1月1日以後の場合)。
法定相続分に応じた取得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
~1,000万円以下 | 10% | 0円 |
~3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
~5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
~1億円以下 | 30% | 700万円 |
~2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
~3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
~6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円超~ | 55% | 7,200万円 |
金額が大きくなればその税率も大きくなります。
ただし、遺産総額等から差し引く負債、葬儀費用、控除される金額等もあります。
そのため、あらゆる相続人達に必ず高額な相続税が課されるわけではありません。
いろいろな控除制度がある
相続税の計算には、遺産総額等から差し引く様々な控除制度が存在します。
これらの制度をうまく利用すれば、重い相続税の負担を軽減できることでしょう。
しかし、相続人の条件を満たしていなかったり、軽減措置が利用できる特定の財産を取得していなかったりすると、せっかくの制度が活用できません。
こちらでは、いろいろな控除制度の効果や適用条件について解説します。
基礎控除とは
被相続人のプラスの遺産内で一定金額までなら、相続税の課税や、その申告が不要となる制度です。
こちらの計算式は、「3,000万円+600万円×法定相続人の数」となります。
計算式を見てもわかりますが、法定相続人は多いほど基礎控除額も増加します。
被相続人の配偶者は必ず法定相続人になれます。
ただし、その他の相続人はまず第1順位の方々(子等)、第1順位がいなければ第2順位(直系尊属)、第2順位がいなければ第3順位(兄弟姉妹)という形で、相続人としての地位が巡ってきます。
例えば、被相続人の法定相続人が配偶者と子3人だった場合は、
3,000万円+600万円×4人=5,400万円
つまり、5,400万円分をプラスの遺産から差し引くことができるわけです。
死亡保険金等の非課税枠
前述したように死亡保険金や死亡退職金等は、「みなし相続財産」としてプラスの遺産にカウントされてしまいます。
しかし、これらの保険金・退職金に非課税枠が設定されており、その計算式は「500万円×法定相続人の数」となります。
非課税枠も、やはり法定相続人が多いと納税する側に有利となります。
例えば死亡保険金総額が2,500万円で、被相続人の法定相続人が配偶者と子3人だった場合、
500万円×4人=2,000万円
つまり、2,000万円分を死亡保険金総額から差し引くことができるわけです。
2,500万円-2,000万円=500万円
差し引き500万円が残ります。
こちらは他のプラスの遺産に加えます。
配偶者の税額の軽減
こちらは、被相続人の配偶者へ非常に有利となる制度です。
相続や遺贈で得た正味の金額が、
- 1億6,000万円
- 配偶者の法定相続分相当額
どちらか多い金額まで、相続税が課されることはありません。
なお、本制度を利用する場合は相続税の申告が必要です。
相続税の申告書の他、遺言書の写しまたは遺産分割協議書の写し、配偶者の取得した財産が確認できる書類等を、被相続人の住所地を所轄する税務署へ申告します。
ただし、相続開始を知った日の翌日から10ヵ月以内までに遺産分割されていないと、原則として本制度の対象外となります。
それでもこの制度を利用したいときは、いったん法定相続分で遺産分割した形を取り、相続税の申告・納税を行います。
その際に、申告と一緒に「告期限後3年以内の分割見込書」を税務署へ提出し、遺産分割した翌日から4ヵ月以内に更正の請求をしましょう。
小規模宅地等の特例
こちらは宅地を相続の際、被相続人の
- 居住の用に供されていた土地
- 事業の用に供されていた宅地
- 不動産貸付業・駐車場業等の貸付事業の用に供されていた宅地
で、適用要件を満たし、一定の面積の範囲内だと評価額を最大8割減額できる特例です。
この特例も、配偶者の税額の軽減と同様に利用するならば、相続税の申告が必要です。
相続税の申告書の他、明細書、遺産分割協議書の写し等を、被相続人の住所地を所轄する税務署へ申告します。
また、相続開始を知った日の翌日から10ヵ月以内までに遺産分割されていないと、原則として適用対象外になります。
申告期限まで間に合わないときは、こちらも申告時「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付することが必要です.
相続税の実際のシミュレーション事例
こちらでは具体例を用いて、どの位の相続税がかかるかシミュレーションしてみます。
(例)配偶者・子1人の場合
- 相続または遺贈で取得した財産価額:7,000万円
- みなし相続等で取得した財産価額:死亡保険金1,500万円
- 非課税財産価額:死亡保険金非課税枠1,000万円
- 相続時精算課税に係る贈与財産価額:なし
- 債務・葬式費用:500万円
- 相続開始前3年以内の贈与財産価額:300万円
- 他の特例:配偶者の税額の軽減適用
①まずは死亡保険金の非課税枠は1,000万円(500万円×2人)なので、死亡保険金1,500万円から差し引きます。
1,500万円-1,000万円=500万円
②相続または遺贈で取得した財産価額等から債務・葬式費用、基礎控除を差し引きます。
7,000万円+500万円(非課税枠差し引き後のみなし相続)-500万円=7,000万円
③遺産額7,000万円へ300万円分の相続開始前3年以内の贈与財産価額を加えます。
7,000万円+300万円=7,300万円
④基礎控除を算定します。
3,000万円+600万円×2人=4,200万円
⑤正味の遺産額7,300万円から基礎控除分を差し引きます。
7,300万円-4,200万円=3,100万円
⑥法定相続分で分ければ次のようになります。
配偶者:3,100万円×1/2=1,550万円・子:3,100万円×1/2=1,550万円
⑦相続税を計算してみます。
配偶者も子も次のような相続税額となります。
1,550万円×15%-50万円=182.5万円
⑧ただし、配偶者の税額の軽減適用があるので
配偶者:相続税0円・子:相続税182.5万円
相続税の申告方法について
相続税の申告は確定申告で行うべきか、気になる方も多いことでしょう。
前述したように、相続税の申告は相続開始を知った日の翌日から10ヵ月以内に、被相続人の住所地を所轄する税務署で手続きします。
確定申告で行う必要はありません。
ただし、この期限内に申告を行わなければ、いろいろな特例が利用できなくなるほか、延滞税・加算税等を課されるケースもあります。
正確かつ速やかに申告を行いましょう。
相続税の申告の流れ
相続税の申告は次のような手順となります。
- 1. 正確に財産調査する
- 2. 被相続人のプラスの遺産や負債等が分かったら、相続税がどれ位になるか計算を行う
- 3. 相続税申告の必要を判断する
- 4. 必要書類を収集する
- 5. 期限内に申告し、税金納付をする
なお、提出する書類は次の通りです。
- 相続税申告書
- 被相続人の出生~死亡までの戸籍謄本
- 死亡診断書
- 相続人の本人確認書類:マイナンバーカードや運転免許証の写し等
- 遺言書または遺産分割協議書の写し
- 相続人の戸籍謄本・住民票
- 相続人全員の印鑑証明
- 金融資産に関する証明書:預金残高証明書や通帳等
- 不動資産に関する証明書:登記簿謄本や固定資産税評価証明書等
なお、ケースによっては追加の書類が必要となる場合もあります。
準確定申告とは?
あまり聞き慣れない申告手続きかもしれませんが、
- 被相続人が生前に事業経営をしており、毎年の確定申告していた
- 被相続人が亡くなる直前、土地等の売却で収入を得た
という場合、亡くなった日の4ヶ月以内に被相続人の確定申告をしなければいけません。
申告期限を過ぎてしまうと、追徴課税等が課される恐れもあります。
準確定申告の方法が分からなければ、税務署の職員等へ相談してから手続きに取りかかりましょう。
まとめ
相続が開始されたからと言って、大慌てで相続税の申告手続きをすると、計算が誤っていたり、申告後に新たな遺産を発見したりするかもしれません。
まずは正確な遺産の把握と相続税の算出を心掛け、スムーズな申告が行えるように、他の相続人達と協力して作業を行いましょう。