自宅や貸家などの家屋、その他の建物にかかる相続税を計算するときには、現金や預貯金の場合と違い、さまざまなことを考慮しなければなりません。
最終的な税額の計算式は「遺産総額×税率」(場合によっては控除額を差し引く)という単純なものになりますが、建物の場合は特に、評価額をいくらとして計算するのかについて注意すべき点がいくつかあります。
この記事では、建物の相続税評価額と計算方法について解説します。
建物の相続税評価額とは
相続税を計算するためには、まずは遺産がいくらあるのかを確定しなければなりません。
現金や預貯金であれば金額が明確なので単純ですが、建物については、相続税の計算においていくらと評価するのかについてルールがあります。
そのルールに基づいて算出した金額を「相続税評価額」と言います。
相続税評価額は、時価とイコールではありません。
時価よりも低くなるようにルールが決められています。
したがって、ルールを理解して正しく計算しないと相続税を払いすぎて損をする可能性が高くなってしまいます。
では、建物の相続税評価額はどのようにして計算すれば良いのでしょうか?
建物の相続税評価額とは
建物の相続税評価額は、基本的には固定資産税評価額とイコールになります。
固定資産税評価額とは、固定資産税を計算する基準とするために全国の市区町村が管轄区域内の不動産を個別に評価して決定している評価額のことです。
固定資産税評価額は、不動産の所有者に毎年送られてくる固定資産税の納税通知書に付いている「課税明細書」の中に書かれています。
したがって、お手元に納税通知書があれば固定資産税評価額を確認することができます。
その他、固定資産税評価額を確認する方法としては、市町村の役場で固定資産税評価証明書を取得したり、固定資産課税台帳を閲覧する等の方法もあります。
固定資産税評価額は公示価格の70%
固定資産税評価額は、公示価格の概ね70%を目安として定められています。
公示価格と時価もイコールというわけではないのですが、固定資産税評価額は時価よりも低く設定されているのです。
これは、不動産は現金や預貯金、動産に比べると流動性が低く、換金するのが容易ではないため、納税者の負担が重くなりすぎないように配慮されたためと考えられています。
漫然と時価を基準にして相続税を計算すると、かなり損をしてしまう可能性が高いことがおわかりになるでしょう。
ただ、建物の相続税評価額は、さらに減額される場合が多々あります。
基本は固定資産税評価額なのですが、これを出発点として、さらにチェックすべきことがあります。
貸家の相続税評価額はさらに減額される
相続した建物が貸家である場合は、さらに相続税評価額が低くなります。
他人に賃貸している家屋は、自宅用の家屋よりも制約が大きく、より流動性が低いため、借家権の評価分を固定資産税評価額から差し引くことができるのです。
借家権割合は現在、全国一律で30%と決められています。
これを差し引くことになるので、貸家の相続税評価額はさらに固定資産税評価額の70%ということになります。
固定資産税評価額は公示価格の70%ですから、貸家の相続税評価額は公示価格の49%にまで下がるのです。
ただし、相続した建物が一戸建ての貸家ではなく賃貸アパートの場合は、借家権割合を差し引くことができるのは賃貸されている部分だけです。
借り手がついていない部分については借家権割合を差し引くことはできません。
例えば、10室ある賃貸アパートについて、5室が空室だった場合は入居率50%なので、差し引くことができる借家権割合は15%(30%×0.5)となります。
※実際には賃貸部分とその他の部分の床面積で計算するので、入居率で単純計算することはできません。
借家権割合が15%だと、その賃貸アパートの相続税評価額は固定資産税評価額の85%、公示価格の59.5%となります。
小規模宅地等の特例は活用すべき
以上のように貸家については相続税評価額を大幅に減額することができますが、実際には他人に貸している家屋よりも、自宅として住んでいる家屋の方が保有する必要性が高いはずです。
自宅を処分しなければ相続税が払えないということになれば大変です。
そんな事情を考慮して「小規模宅地等の特例」によって最大で80%まで相続税評価額を減額することができるようになっています。
この特例は土地に適用されるものであり、建物については減額されないのですが、通常は家屋よりも土地の評価額の方が高いため、この特例が適用されることによって結果として土地上の家屋も守ることができるケースが多いのです。
小規模宅地等の特例の適用要件は細かく定められていますが、要件を満たせば、被相続人と別居していた親族が相続で取得した場合にも適用されますし、一定の事業用宅地や貸付用宅地にも適用されます。
家業を営むために使用していた土地・家屋も、この特例を活用することで守ることができるのです。
相続税評価額のまとめ
建物にかかる相続税を計算するときには、ルールを理解して正しく計算することで相続税評価額を大幅に減額することができるケースが多くあります。
その結果、納税額を大幅に減額したり、非課税にしたりできるようになります。
ただし、特例を適用して正しく計算することは専門家でも容易ではないと言われています。
相続税がかかりそうなケースでは、早めに相続税に強い税理士を探して相談しておくことが望ましいと言えます。
相続税の計算例
それでは、建物を相続した場合にどれくらいの相続税がかかるのか、具体例を挙げて計算してみましょう。
本来は不動産のみにかかる相続税を個別に計算することはできず、遺産全体の相続税評価額を確定させてからでないと正確な計算はできないのですが、ここでは遺産が不動産のみであると仮定してご説明します。
自宅の土地家屋を相続した場合
被相続人が住んでいた自宅の土地家屋を相続した場合を考えてみましょう。
相続人としては配偶者と3人の子どもの合計4人がいるとします。
土地の固定資産税評価額が3,000万円、家屋の固定資産税評価額が1,500万円と仮定します。
まず、土地と家屋の相続税評価額を割り出します。
土地の相続税評価額の計算方法は複雑ですが、簡易的に概算する方法として固定資産税評価額を1.14倍する方法がよく使われています。
多くの場合でこの計算方法によって相続税評価額に近い金額を算出することができるからです。
今回の例でも固定資産税評価額を1.14倍すると、土地の相続税評価額は3,420万円(3,000万円×1.14)となります。
建物の相続税評価額は原則として固定資産税評価額の通りなので、今回の例では1,500万円となります。
土地と家屋の相続税評価額を合計すると4,920万円です。
相続税には大きな基礎控除があり、「3,000万円+600万円×法定相続人の人数」で計算した金額を相続税評価額から差し引くことができます。
つまり、遺産全体の相続税評価額がこの基礎控除額を超えなければ、相続税はかからないのです。
この場合は、相続税の申告も不要です。
今回の例では、法定相続人が4人いるので、基礎控除額は「3,000万円+600万円×4」で5,400万円になります。
土地と家屋の相続税評価額の合計4,920万円は基礎控除額を超えていないので、他にめぼしい遺産がなければ相続税はかからず、申告も不要です。
しかし、あと480万円を超える遺産がもしあれば、相続税がかかります。
その場合でも、小規模宅地等の特例を適用すれば相続税評価額を基礎控除額の範囲内に抑えることができる可能性が高いです。
ただし、特例の適用によって相続税が0円となるケースでは、申告は必要です。
したがって、不安な場合は早めに税理士などの専門家に相談した方が良いでしょう。
貸家を相続した場合
先ほどと同じように法定相続人が配偶者と子ども3人の合計4人のケースで、今度は被相続人が所有していた貸家を相続した場合を考えてみましょう。
土地の固定資産税評価額を4,500万円、貸家である家屋の固定資産税が2,000万円として、入居率は100%として考えてみます。
貸家が建っている土地の相続税評価額を求めるには複雑な計算式があるのですが、ここではその説明は省略して、今回の土地の相続税評価額は5,000万円だとします。
貸家の相続税評価額は固定資産税評価額から30%の借家権割合を差し引くことができるので、1,400万円(2,000万円×0.7)となります。
土地と貸家の相続税評価額を合計すると6,400万円となり、基礎控除額の5,400万円を1,000万円超えています。
この場合は、超えた1,000万円に対して相続税がかかります。
税率は課税価格1,000万円までは10%なので、100万円の相続税がかかるということになります。
※実際には、遺産全体の相続税評価額全体に税率を掛けるのではなく、各相続人の相続分ごとに計算していきます。
ただし、このケースでも小規模宅地等の特例を適用できる可能性があります。
貸家が建っている土地の相続税評価額の場合、200平方メートルを限度として評価額の50%を減額することができます。
今回の例でも、要件を満たせば、土地の相続税評価額が2,500万円(5,000万円×0.5)とすることができるのです。
そうすると、土地と建物の相続税評価額の合計が3,900万円となり、基礎控除額の範囲内に収まるので相続税はかからないことになります。
ただし、特例の適用によって相続税が0円になるケースなので、申告は必要です。
まとめ
建物を相続した場合、相続税を計算するためには知っておかなければならないことがたくさんあります。
通常は建物だけでなく土地もセットで相続するでしょうから、土地についての相続税計算のルールも知っておかなければなりません。
複雑なルールがたくさんありますが、知らずに漫然と申告すると、多額の相続税を払いすぎることになりかねません。
税務署は過少申告には目を光らせていますが、払いすぎについてはこちらが気付いて修正申告をしない限りはそのままになってしまいます。
この記事では、建物を相続した場合の相続税計算の出発点となる相続税評価額の求め方を解説しました。
これを理解しておくだけでも、相続税がかかるかどうかの判断には役立つことが多いはずです。
ただ、不安があれば早めに税理士に相談することをおすすめします。