この記事でわかること
- 相続が発生した場合に遺言書があるか、遺言書が有効かどうかの確認方法がわかる
- 遺言書がある場合の相続の流れや必要な手続きの方法を知ることができる
- 遺言執行者を選定しておいた場合の手続きのメリットを知ることができる
財産を保有している人が、自分が亡くなった時の財産の処分方法について決めることはできません。
財産を誰が引き継ぐのか、あるいは売却するのかといったことは、すべて相続人が決めることとなります。
そこで、財産を保有している人自身がどのようにしてほしいのか、その意思を残すことができる方法として、遺言書を利用する人が増えています。
遺言書の有無の確認方法、そして遺言書がある場合の相続の流れ・手続きについて確認していきましょう。
遺言書の確認内容
親が亡くなってあなたが相続人となるような相続が発生した場合、まずは遺言書の有無を確認すること、そしてその遺言書が有効なものかを確認することが必要です。
それでは、具体的にどのように確認していけばいいのでしょうか。
遺言書の有無を確認する方法、そして遺言書が有効に成立するための確認方法を解説します。
相続が発生したら遺言書があるかを確認する
相続が発生したら、まずは遺言書の有無を確認します。
最初に確認するのは、遺言書の有無によって、その後の遺産分割の方法や相続に関する手続きが大きく変わるためです。
たとえば、遺言書がないと思い、相続人同士で遺産分割の方法を話し合って決めた後に遺言書が発見された場合、その遺産分割は大混乱となり、最悪の場合、裁判沙汰となってしまう可能性もあります。
そのような混乱を引き起こさないためにも、遺言書の存在の確認は慎重に行わなければならないのです。
なお、遺言書の種類としては、一般的に自筆証書遺言と公正証書遺言の2つが利用されています。
自筆証書遺言とは、遺言者が自分で作成した遺言書のことです。
作成した遺言書は、自宅で保管しているか、親族の誰かに預けていることが多いと思います。
ただ、自宅にあるといっても、自宅のどこにあるかわからない場合には、被相続人の部屋の中をくまなく探さなくてはなりません。
また、金融機関の貸金庫に保管しているといったことも考えられます。
公正証書遺言とは、公証役場で公証人などの立会いのもと作成した遺言書です。
公正証書遺言は、作成したらそのまま公証役場で保管されるため、公正証書遺言があるとわかっている場合には、すぐに公証役場に行って確認することができます。
また、公正証書遺言があるかどうかわからない場合にも、公証役場で検索して遺言書があるかを確認することができます。
遺言書が法的に有効かどうかを確認する
自筆証書遺言が発見された場合、その遺言書は家庭裁判所で検認の手続きを受けなければなりません。
検認とは、その遺言書を後から改変したり紛失したりすることのないように行う手続きです。
検認を受けていなくても無効になるわけではありませんが、その遺言書を発見した人が勝手に開封することはトラブルのもとです。
なお、検認を受けたからといって、その遺言書が有効に成立するわけではありません。
自筆証書遺言の場合、自筆されていない場合、署名押印がない場合、作成した日付が記載されていない場合、後から正しい形で修正されていない場合などは、遺言書として有効に成立しません。
不備がある遺言書であるとわかった場合は、遺言書により遺産分割することはできないため、遺産分割協議を行うこととなります。
遺言書がある場合の相続の流れ
遺言書がある場合には、どのような形で相続の手続きを進めることになるのでしょうか。
その流れを次の一覧表で確認しておきましょう。
相続の流れ一覧表
検認とは
自筆証書遺言があった場合、その遺言書に記載されている財産の分け方や相続人に関する事柄について争いになることがあります。
ただ、それ以前の問題として、その遺言書が本物かどうか、改ざんや偽造・変造がされていないかということで争いになる場合もありますし、発見された遺言書の内容を不服に思う相続人が破棄してしまったり、後から書き換えてしまったりするといったことも考えられます。
そのため、どのように遺言書を保管しておくかという問題が生じます。
そこで、自筆証書遺言を発見した相続人は、遺言書を発見したことを家庭裁判所に申立てて、検認の手続きを行ってその内容を明確にするとともに、検認の時点において日付や署名などの状態を確認することで、その後に変造されたり紛失したりしても問題のない状態にする必要があります。
この手続きを「検認」といいます。
遺言の執行とは
遺言書がある場合には、その遺言書に書かれている内容を実現する必要があります。
記載されている内容の中には、誰かが何かの行為を行う必要があるものと、特に何らかの行為を必要としないものがあります。
遺言書の内容を実現するために必要な行為を行うことを「遺言の執行」といいます。
自筆遺言書と公正証書遺言の手続きの違い
遺言書として一般的によく利用される自筆証書遺言と公正証書遺言とでは、相続に関する手続きに違いがある部分があります。
それぞれの遺言書がある場合の手続きの進め方について確認しておきます。
自筆証書遺言がある場合の手続き
自筆証書遺言がある場合は、できるだけ早く検認の申立てを行う必要があります。
申立書や申立人の戸籍謄本・住民票、遺言者の出生から死亡までの戸籍謄本、相続人全員の戸籍謄本など必要な書類をそろえて、遺言者の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に申立てを行います。
検認の申立てを行うと、後日、家庭裁判所から検認の期日が通知されます。
申立人以外の相続人が立会いすることも認められますし、立会いがなくても検認は有効に行われます。
検認期日になったら、申立人は遺言書を持って家庭裁判所に行き、遺言書の開封を行います。
検認が終了したら、検認済証明書の交付を申請します。
この証明書は、相続登記などを遺言書に基づいて行う際に必要となるため、忘れずに申請を行う必要があります。
公正証書遺言がある場合の手続き
公正証書遺言があるとわかっている場合は、公証役場でその遺言書の写しを発行してもらうこととなります。
どの公証役場で作成されたのかまでわかっているのであれば、直接その公証役場へ行って手続きを行いましょう。
ただ、実際には公正証書遺言を作成しているのかどうかがわからない場合や、どの公証役場で作成したのかがわからない場合もあります。
そのような場合は、最寄りの公証役場で検索してもらうことができます。
平成元年以降に作成した公正証書遺言について、その作成者・生年月日・性別などを管理しており、どの公証役場で作成したのかを教えてもらえます。
実際に公正証書遺言の写しを発行してもらうためには、その遺言書が作成された公証役場に行く必要がありますが、遺言書が作成されていれば、確実に遺言書を手にすることができます。
そのため、公正証書遺言があるかどうか不明であっても、公証役場で遺言書の有無を確認するようにしましょう。
遺言執行者を選定すると手続きがスムーズ
遺言執行者とは、遺言の内容を実際に実現する人のことをいいます。
遺言書の内容にしたがって、相続人の代わりに相続財産を管理したり、名義変更の手続きを行ったりします。
遺言執行者を選定しなければならない場合
遺言書に記載されていても、遺言執行者がいなければ実現できない内容があります。
遺言書に以下のような内容の記載がされている場合には、必ず遺言執行者を選定しなければなりません。
- ・子の認知がされた場合
婚姻関係にない男女間に生まれた子供について、男性が遺言書で自分の子供であることを認める場合です。
この場合、遺言執行者は認知届を作成し、役所に提出する必要があります。 - ・推定相続人の廃除がされた場合
遺言者が生前に推定相続人から虐待を受けたり重大な侮辱行為を受けたりしていた場合に、遺言書でその人の相続権をはく奪することができます。
この場合、遺言執行者は家庭裁判所に廃除の申立てを行う必要があります。 - ・推定相続人の廃除の取消しがされた場合
廃除を受けていた相続人について、遺言書でその廃除を取り消すこともできます。
この場合、遺言執行者は家庭裁判所に廃除の取消しを申立てます。 - ・不動産の遺贈を受けたが、そもそも相続人がいない場合
遺言者に相続人がいない場合、不動産の所有権移転登記を行うことができません。
遺贈によって不動産を取得した場合、名義変更を行う際には相続人か遺言執行者のいずれかが必要ですが、相続人がいないのであれば、必ず遺言執行者を選定しなければなりません。 - ・不動産の遺贈を受けたが、相続人が所有権移転登記に協力しない場合
遺贈により不動産を取得した場合には、相続人か遺言執行者が協力して不動産の所有権移転登記を行うこととなります。
しかし、相続人がその登記に協力してくれない場合には、遺言執行人を選定して登記を行うのです。
遺言執行者を選定した方がスムーズに手続きできる場合も
遺言執行者を選定しなければならない手続き以外については、遺言執行者がいなくても相続人全員で協力して手続きを行うことができます。
しかし、相続人の中に協力してくれない人がいる場合や、遠方に住んでいるため手続きを行うのが大変な場合は、相続人だけでは手続きを行うことができなかったり、時間がかかってしまったりします。
そのような場合には、遺言執行者を選定して、相続人の代理人として手続きを進めることができます。
相続人同士の争いを防ぐことが期待できる場合もあるため、遺言執行者を選定することには一定の効果があります。
遺言執行者の選定方法
遺言執行者を選定するには、(1)遺言書で遺言執行者を指定する、(2)遺言書で遺言執行者の選定者を指定する、(3)家庭裁判所に遺言執行者の選任を申立てる、のいずれかの方法によります。
遺言書に記載された内容によっては、必ず遺言執行者を選定しなければなりません。
この場合、遺言者は遺言書を作成する際に、遺言執行者を指定しておくことができます。
事前に遺言執行者に指定することを打診しておけば、よりスムーズに手続きを進めることが可能となります。
ただし、事前に遺言執行者を指定することを打診していても、遺言執行者が先に亡くなってしまう場合や、気が変わって遺言執行者になることを拒否される場合も考えられます。
そのような場合に備えて、遺言執行者を選定する人を指定することもできます。
遺言執行者が遺言書で指定されていない場合には、家庭裁判所に遺言執行者の選任を申立てる必要があります。
たとえ相続人であっても、遺言執行者を勝手に選ぶことはできません。
相続人や受遺者、遺言者の債権者などが遺言執行者の選任を申立てることができます。
誰を遺言執行者に選任するのかという問題がありますが、基本的に未成年者と破産者でなければ、誰でも遺言執行者になることができます。
ただ、すべての相続人が納得して手続きを任せられる人は、それほど多くいるわけではありません。
そのため、弁護士などの専門家を遺言執行者に選定することも選択肢となります。
遺言書があっても遺産分割協議は可能
遺言書に遺産分割の方法について記載されていると、その遺言書の内容にしたがって遺産分割を行うこととなります。
この場合、遺産分割協議を行うことなく遺産分割を行い、相続の手続きを進めることができます。
しかし、遺言書の内容に不満を持っている相続人がいる場合もあります。
このような場合、すべての相続人が合意していれば、遺言書の内容にしたがうことなく、遺産分割協議を行うこともできます。
遺産分割の内容に不満のある相続人がいる場合でも、できるだけ円満な遺産分割ができるように、遺言書の内容とは異なる形で遺産分割を行うことも、選択肢として検討する必要があります。
ただ、相続人の中に1人でも遺産分割協議を行うことに反対する人がいる場合は、遺言書の内容にしたがって遺産分割を行うことはできません。
まとめ
遺言書があれば、相続の際にスムーズに手続きを進めることができ、相続人同士でもめることはないと思っているかもしれません。
しかし、実際には遺言書があってもさまざまな手続きが必要ですし、相続人同士でトラブルになる可能性もあります。
遺言書を作成する人は、すべての相続人が納得できるような内容の遺言書を作成することを心がけるようにしましょう。
また、相続人は遺言書があるからといって、その内容がすべてと考えず、揉め事にならないような相続となるようにしましょう。