遺言書が無効となるケースってどんなとき?トラブルになる前に

相続に当たり、亡くなった人が遺言書を残している場合には、その遺言書の内容に基づいて遺産分割が行われることになります。

法律の規定と遺言の内容が矛盾するときには、遺言の方が優先されますから、遺言には非常に大きな効力が認められているといえます。

一方で、遺言は法律で定められたルールに基づいて作成されていない場合には無効となってしまうことがあります。

以下では、遺言が無効になってしまう具体的なケースと、無効であることを確認させるために必要となる「遺言無効確認の訴え」について説明いたします。

遺言書が無効となる具体的なケース

まずは、遺言書が無効となってしまう具体的なケースについて、実際の判例をもとに見ていきましょう。

実際に多いのは形式を満たさない形の自筆証書遺言のケースですが、公正証書遺言についても遺言が無効となった判例があります。

①自筆証書遺言が無効とされた判例

以下で紹介するのは、高松高等裁判所の平成25年7月16日付の判例で、自筆証書遺言の有効性が問題となった裁判の判決です。

自筆証書遺言は遺言者本人が手書きする必要がありますが、遺言者が過去に脳梗塞を患っており、自筆できる状態であったかどうかが問題となりました。

事実の概要

遺言者は昭和43年に脳梗塞を発症し、17年後の昭和60年に80歳で死亡しました。

残されていた遺言の日付は昭和53年であり、遺族の証言によると遺言者は脳梗塞発症後右半身まひの状態で、文字を書くことが難しい状態であることから「自分で書いたものではないのでは」という疑問が持たれていたという事案です。

判決内容

結論的には、一審判決では遺言は有効、二審判決では遺言は無効とされ確定しています。

一審判決で遺言が有効とされた理由としては、遺言書に押印されていた印鑑が遺言者本人のものであることや、筆跡鑑定の結果、遺言書が偽造であることが明確に証明できなかったことが挙げられます。

一方、二審判決では遺言書は遺言者が自筆したものではないとして遺言書の内容を無効としています。

その理由としては、遺言書が作成された当時に遺言者本人が親族にあてて書いていた年賀状の筆跡と比較し、親族の名前をひらがなで書いていたのに遺言書では漢字で書いているなどの事実から、遺言書は遺言者の妻が書いた疑いがあるとしています。

また、遺言者本人が、右半身がまひしていることを年賀状で記載していることなどからみて、同時期に作成された遺言書の内容は遺言者本人が書いたものと認めることはできないと判断しています。

このように、自筆証書遺言が本人が自筆したものであるかどうかが争われる場合には、筆跡鑑定その他の方法で厳密に証拠調べが行われることになります。

②公正証書遺言が無効とされた判例

公正証書遺言は、公証人という法律の専門家にアドバイスを受けながら遺言書を作成する方法ですから、遺言が無効となってしまうケースは通常考えられません。

しかし、過去の判例では公正証書の形で作成されたのにもかかわらず、遺言書の有効性が問題となった判例があります。

以下では、公正証書遺言の有効性が問題となった、東京地方裁判所の平成28年3月4日付判決を紹介します。

事実の概要

遺言者(遺言作成時94歳)は、自分の孫に会社の経営を継がせたいと考えていたことが周囲の証言から確認されていたものの、遺言書の内容では他家に嫁いだ相続人にすべての遺産を相続させるとされていました。

遺言書は公正証書遺言の形で残されていたものの、遺言者が公証人と面談した当時において、正常な判断能力を有していたかどうかが問題となりました。

判決内容

結論的には、遺言者は公正証書遺言を作成した時点では正常な判断能力を有していなかったとして、遺言は無効であると判断されています。

その理由としては、遺言者自身の要望についての周囲の証言(孫に会社を継がせたいと考えていたことや、一方でそれ以外の財産については相続人全体で平等に分配したいと漏らしていたなど)と、遺言者が遺言書を作成した12日後にせん妄状態に陥っていた事実などに照らし、遺言作成時において遺言者には遺言能力はなかったことを挙げています。

公正証書遺言は公証人が遺言書式を作成するものですから、遺言の形式については不備があることは通常考えられません。

しかし、公証人と面談した当時において遺言者に遺言能力がそもそもなかったと判断された場合には、公正証書遺言でも無効となってしまう可能性があるのです。

遺言無効確認の訴えとは

上のように、遺言の有効性が問題となるケースでは、最終的には遺言無効確認の訴えを裁判所に提起することが必要になります。

もちろん、裁判まで進まなくとも、遺産分割協議の場で相続人同士の話し合いで遺言の内容について合意ができるのであれば問題ありません。

遺産分割協議では解決できない場合にも、訴訟の前段階として裁判所に間に入ってもらう調停を利用するという方法もあります。

しかし、これらの事前の方法でも遺言の内容について相続人の間で合意を形成できない場合には、遺言無効確認訴訟を裁判所に対して提起し、裁判官の判決という形で決着する必要があります。

遺言無効確認訴訟の請求の趣旨として多いケース

「どのような内容をもとに裁判で争うか」のことを、法律上請求の趣旨と呼びます。

遺言の有効性が問題となる裁判における請求の趣旨として多いのは、以下のようなものです。

①遺言者の遺言能力の有無

法律上、遺言を残すためには「遺言能力」が必要です。

15歳以上の人であれば遺言は有効に残すことができますが、逆に言うと14歳以下の人の場合には遺言を残していても無効ということになります。

また、15歳以上の人が遺言を残す際には、遺言を作成した時点において正常な精神状態であったことが必要です。

病気やけがなどによって、正常な精神状態になかったことが証明された場合には、様式を備えた遺言であっても無効となる可能性があります。

この点、問題となるのは認知症などを原因として、家庭裁判所から成年被後見人の審判を受けている人の場合です。

成年被後見人も遺言を残すことが可能ですが、その際には医師の立ち合いのもとに行うことが必要とされています。

②公正証書遺言の証人の要件が満たされているか

公正証書遺言を残すためには、2人以上の証人の立ち合いが必要となります。

この証人となるためには、未成年でないことや相続人と利害関係である人(さらにその人の親族等)ではあってはなりません。

証人の適格を欠く人が公正証書遺言作成時の証人となっている場合には、その遺言は無効とされる可能性があります。

③自筆証書遺言について、必要な様式が満たされているか

自筆証書遺言は、法律上作成のルールが厳格に定められています。

遺言者本人による手書きである必要があるほか、加筆や訂正についてもルールが決まっています。

また、遺言の日付や、財産目録に記載されている遺産の内容が正確でない場合には、遺言の一部や全部が無効となってしまう可能性があります。

④遺言の撤回

遺言者が複数の遺言を残している場合には、日付の古い遺言は撤回したものとみなされます。

複数の遺言がなくとも、いったん作成した遺言について、遺言者が撤回の意思表示をしたときには、すでに作成した遺言は無効となります。

ただし、遺言を撤回する意思表示をした後、さらにその撤回の意思表示を撤回した場合(つまり「撤回の撤回」です)には、具体的な状況に応じて裁判所の判断は分かれる可能性があります。

⑤第三者による遺言の強制の有無

遺言者に対して、遺言者以外の人により詐欺や脅迫が行われた場合には、当該遺言は無効となる可能性があります。

⑥遺言者による遺言内容の錯誤

遺言者が遺言の重要な内容について事実誤認をしていたことが明らかな場合には、この遺言は無効となる可能性があります。

⑦公序良俗に反する内容の遺言

社会通念上認められないような遺言の内容は、公序良俗に反するために無効とされる可能性があります。

問題となるケースとしては「愛人に全額遺産を相続させる」といった内容の遺言です。

こうした遺言内容は具体的な状況に即して無効とされる可能性があります。

調停前置主義

相続や離婚といった家族に関する問題は、本格的な裁判を行う前に、裁判所が間に入る形で当事者間の話し合いをすすめる「調停前置主義」というルールがあります。

遺言無効訴訟についてもこの調停前置主義が適用されるため、当事者間がいきなり訴訟に訴えようとしている場合には、裁判所は職権で事件を調停に回すことができます。

ただし、実際には遺言無効訴訟などの場合には調停を経ずにいきなり訴訟手続きに入るケースも少なくありません。

遺言無効確認訴訟で勝つには

遺言無効訴訟に勝つためには、自分に有利な事実を裁判所に提出する証拠として集められるかがポイントになります。

遺言無効訴訟において裁判所に提出する証拠には形式上の制限はありません。

例えば、上の裁判例でも見たように、遺言者が遺言作成時の前後において親族に出した年賀状などが決定的な証拠になることもあります。

どのような事実や物件が証拠となるか?については法律的な実務知識が重要になりますから、遺言無効訴訟を提起することを検討している方は、相続問題にくわしい弁護士に相談するようにしましょう。

まとめ

今回は、作成した遺言書が無効となってしまうケースについて解説させていただきました。

これから遺言書を作成する方は、自分の意思を遺族にきちんと伝わるようにするために、形式を備えた遺言書を作成するよう注意しなくてはなりません。

より確実を期すのであれば公正証書遺言の形式を選択するとともに、遺産分割の方法などについて法律家の支援を受けることも選択肢に入れてみてください。